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「マシュー・モリソン・イン・コンサート」をWOWOWが放送

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音楽は世界の共通言語! 歌とダンスで言葉を超えた物語を伝えるショー

3月31日(土)午後5:00より、WOWOWライブで「マシュー・モリソン・イン・コンサート」が放送される。

ミュージカルドラマ「glee/グリー」のシュースター先生役でおなじみのマシュー・モリソン。ブロードウェイのスターでもある彼は、歌とダンスで物語を伝える生粋のエンターテイナーだ。2017年には「トニー賞コンサート in Tokyo」で初来日し、圧倒的なパフォーマンス力で会場を夢の世界へと引き込だ。そして来日2回目となる今回は、2018年2月24日に東京・Bunkamura オーチャードホールで日本初のソロコンサートを開催した。「glee/グリー」ファンはもちろんのこと、ミュージカルファンも、時を忘れて歌の世界に浸ることができる贅沢なコンサードだ。

「音楽は世界の共通言語」と観客に語りかけるマシュー。たとえ言葉はわからなくても、音楽という言語で心に物語を響かせていくーこれこそ、ミュージカルスターだからこそ実現できるパフォーマンスだ。今回は、ミュージカルナンバーや「glee/グリー」でおなじみの曲だけでなく、永遠のジャズスタンダード「It Don't Mean a Thingスウィングしなけりゃ意味がない)」をはじめ、シナトラやビートルズなどアメリカの音楽史を飾る名曲も披露している。マシューにかかるとスタンダードナンバーが、途端にミュージカルのワンシーンに変わる。歌って、踊って、物語を観客に届けてくれるのだ。

もちろん、ミュージカルナンバーもマシューならではの解釈と表現で会場を魅了する。例えば、「オリバー!」のナンバー「As Long as He Needs Me(彼が私を必要とするかぎり)」。これはもともと女性の切ない恋心を歌った曲だが、マシューはこの歌を新解釈で披露する。最近、息子が生まれ、父親になったばかりのマシューにとっては、この“HE(彼)”はまさに息子さん。父親としての覚悟、息子への深い愛という新解釈で情感たっぷりに歌い上げる。歌の主人公が、愛に苦しむ女性から、愛情あふれる父親に変わると、歌詞は同じでもまったく違う歌に聴こえてくる。そのほかにも「マイ・フェア・レディ」や「雨に唄えば」など往年のナンバーのワンシーンも演じてくれるが、やはり見逃せないのが、オリジナルキャストを務めた「ヘアスプレー」と「ファインディング・ネバーランド」からのナンバーだろう。ミュージカルファンにとってオリジナルキャストの歌を堪能できることほど贅沢なことはない。しかも「ヘアスプレー」は、このミュージカルを観たことがない人も、観た気になれる圧巻のメドレーだ。

そして「ファインディング・ネバーランド」では、日本から中川晃教(ミュージカル「モーツァルト」「ジャージー・ボーイズ」など)がゲスト出演し、一緒にワンシーンを演じてくれる。この日米ミュージカル俳優の共演も特別なコンサートならではだ。

これだけでも見どころ盛りだくさんだが、「glee/グリー」ファンには、さらに嬉しい演出がある。それはドラマで登場する“謎のピアノマン”こと、ブラッド・エリスが、なんとピアノを演奏してくれるのだ。ドラマではセリフのないブラッドだが、コンサートではマシューへの思いを話してくれる。これはドラマ・ファンには思いがけない楽しみになるだろう。ずっと仕事をともにしてきた音楽ディレクターのブラッドが「本物のいいやつで、ジェントルマンだ」と賞賛するとおり、マシューの言葉を超えて日本の観客を楽しませたいという思いが、どの曲からも伝わってくる。そして、そんなマシューの優しさを歌にしてくれたのが、「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」だ。彼はこの名曲を日本語で私たちに届けてくれる。

2月24日にで開催されたこの日本初のソロコンサートは、2公演あり、「ブロードウェイ/アメリカンブックバージョン」と「ブロードウェイ/ポップヒッツバージョン」とそれぞれ異なった楽曲(一部は同じ楽曲)で構成されている。WOWOWでは、この両バージョンを再構成したスペシャル・バージョンで放送する。放送版ではマシューの表情までじっくり楽しめるので、歌で演じている彼の表現力をさらに実感できるだろう。マシューが贈る音楽の宝箱のようなコンサート。ぜひ、WOWOWでその宝箱のふたを開け、夢のような世界に酔いしれてほしい。


“ワイン&ビール” ならぬ “ワイン or ビール” 『ブロードウェイミュージカル「レント」来日公演2018』より、母の日ギフトチケットが発売

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『ブロードウェイミュージカル「レント」来日公演2018』が、2018年8月1日(水)より東急シアターオーブにて上演され、母の日ギフトチケットの発売が決定した

本公演はプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をもとに、エイズ、ドラッグ、同性愛、友の死……様々な問題を抱えながらも夢を諦めず懸命に生きる若者たちの姿を描いたストーリーと、それを包み込む美しい音楽は、世界中の人々に生きる勇気と希望を与えてきた。 

そんな世界で一番、愛し、愛されるミュージカル『レント』から発売される母の日ギフトチケットは、1幕終盤の名曲、“ラ・ヴィ・ボエーム”の曲中、全キャストが声をそろえてドリンクをオーダーする「ワイン&ビール!」の台詞にちなんで、「ワイン or ビール」どちらか1杯のドリンクを観劇日当日に楽しむことができるものだ。2名でワインとビールをそれぞれオーダーすれば「ワイン&ビール!」も実現可能。 
さらに、チケット券面上部には「Happy mother’s day! いつもありがとう。愛に溢れる日々を。」の母の日メッセージも書かれており、 母の日はもちろん、観劇日当日にも記憶に残る体験ができる母の日ギフトチケットとなっている。今年は後悔のない母の日を過ごせること、間違いなしだ。

⺟の⽇ギフトチケット「ワイン or ビール付きチケット」 

販売期間:5 ⽉ 1 ⽇(⽔)10:00〜5 ⽉ 13 ⽇(⽇)23:59 

プレイガイド情報:http://eplus.jp/sys/web/s/rent/index.html

注意事項: 
※公演⽇当⽇の開場中、休憩中に劇場内の「THE THEATRE BAR(シアターバー)」(2階席ホワイエ)にて、チケット1枚につきワイン(⾚・⽩)またはビール1杯とお引き換えいただけます。 
※ドリンク引換券はいかなる場合(紛失・忘れなど)でも再発⾏は致しません。引換券をお忘れの場合、お引き換え頂けません。 
※ご利⽤なき場合のご返⾦は致しかねます。 
※未成年の⽅、アルコールが飲めない⽅はソフトドリンクをご提供致します。(差額の返⾦はございませんのでご了承ください) 

金属恵比須、熱狂の初関西公演を“演劇目線”でレポート

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いらっしゃい、金属“えべっさん”! あなた方は日本プログレ界の劇団☆新感線だ

4月某日、SPICE編集部のA氏より一通のメールが届いた。

金属恵比須が、神戸で開催されるプログレッシブロックフェス「ExProg×078」にて、初めて関西でのライブを行います。ついてはそのレポートをお願いできませんか?

そのメールを読んだ時、正直こう思った……「なぜ私が?」。

【動画】「ExProg✕078」プロモーション動画


ここで少し自己紹介させていただくことをお許し願いたい。普段私は「演劇ライター」という肩書で、SPICEでもこんな記事あんな記事を書いたりしている。音楽はティーンエージャーの頃に洋楽を中心に聞きまくったが(ちなみに一番の推しはRolling Stones)、この仕事に着いてからはどうしても演劇の方に大きく人生の比重が偏り、音楽濃度はすっかり薄くなってしまっていた。

ただそんな私でも「金属恵比須」の名前はしばしば耳にしていた。というのも、NHK-FMの「三昧」シリーズの中でも最も濃厚な「今日は一日プログレ三昧」は放送のたびにチェックしていたので、前回の放送でこのバンドが紹介され、スターレス髙嶋こと髙嶋政宏が絶賛したのをしっかり聞いていたのだ。それ以降SPICEでも何度かライブレポートが掲載されたのを見かけてはいたが、しかしそのレポートを私がやるのか? プログレ濃度はEmerson, Lake & PalmerとPink FloydのCDを何枚か持っていて、たまに冗談で『Karn Evil9』をカラオケで歌うことがある程度で、ましてやプログレ系のバンドのライブなど今まで行ったことがない私が?

【動画】金属恵比須『ハリガネムシ』PV


しかし前述のA氏から届いたメールには、こういうことも記してあった。

金属恵比須は大変シアトリカルである

シアトリカル。演劇的。唐十郎のドキュメンタリー映画のタイトルにもなった、演劇ファンならアンテナをピッと立てざるを得なくなる言葉だ。演劇からシアトリカルを感じることはあまりにも当然な行為であるが、演劇ではない表現からシアトリカルを感じ、それを言語化するというのは、なるほど、演劇に染まりすぎてガチガチになってきた私の感性を、荒療治に近い形でリセットすることができるかもしれない。これはいわば、私にとっての“恐怖の頭脳改革”だ。

というのが、ライブ当日までの長い前振りである。ここからが本番だ。

ライブ開始前に、金属恵比須の皆様が取材の時間を取ってくださるとのことで、早目に会場の[チキンジョージ]を訪れた。開場待ちと思われる観客がすでに10名ほどたむろっており、彼らへの期待の高さがすでにうかがわれる。そして到着早々すぐにバンドの皆様に、挨拶がてら簡単な取材を試みた。

開演前に物販にいそしむ金属恵比須メンバーたち。すでに多くの人がCDやグッズを購入していた  (撮影:吉永美和子)

開演前に物販にいそしむ金属恵比須メンバーたち。すでに多くの人がCDやグッズを購入していた  (撮影:吉永美和子)

彼らにとって今回のライブは、初関西上陸というのはもちろん、現時点で最西端のライブ開催地となるそうだ。ちなみに最東端はメキシコのバハ・カリフォルニアだという。何だこの距離感の極端さ。そしてこの日の日中には、HMV 三宮VIVREでインストアイベントを行ったそうで、そこで関西のお客様の反応や、どんなMCを入れたらいいかを探っていたそう。「思ったよりもお客さんは温かかったですね。ここで反応が冷たかったら、そのまま東京に帰ろうと思っていました」と、バンドリーダー&ギターの高木大地は笑った。

後半はほぼ雑談状態となっていた取材を開場直前に切り上げ、程なくして会場にはワラワラと人が入り始めた。今回金属恵比須が参加した「ExProg×078」は、IT・映像・音楽が交差するクロスメディアイベント「078KOBE」の一環として、神戸のNPOレーベル「JPRG RECORDS」が企画したもの。金属恵比須以外にも、「Quaser」「KADATH」「荘園」という3つのプログレバンドが出演する。

そして開演時間となり、怒涛のライブが始まる……かと思いきや、まず「JPRG RECORDS」の森田拓也より、開幕の挨拶と「今回特別に招へいした」という金属恵比須の紹介が。高木も舞台に上がり、金属恵比須の世界観に大きな影響を与えた小説家・横溝正史が神戸出身であることに触れ「ここが『悪魔が来りて笛を吹く』の舞台​なんですよね!」と、偏りまくった神戸愛をほとばしらせる。しかし決しておべんちゃらではない、この本気の地元トークで、ライブ開始前から観客の心をしっかりつかんだという手応えが感じられた。

開演前の森田・高木 (写真:バンド提供)

開演前の森田・高木 (写真:バンド提供)


ライブのトップバッターは、地元神戸のバンド「Quaser」。阪神・淡路大震災や東日本大震災を元にした曲を、カタルシス感にあふれた壮大な雰囲気で聞かせる。

【動画】Quaser / Born in chaos : Promised land 4 @ ExProgX078


その次は、山口県から来た「KADATH」。全員スーツ姿のコスチューム同様、音楽の方もドラマティックかつクラシカルだけど、秘めた暴力性を感じる部分も。

KADATH (写真:バンド提供)

KADATH (写真:バンド提供)


次に登場した関西のバンド「荘園」は完全なインストゥルメンタルで、複雑なメロディをゴリゴリに重い音で聞かせてくる。

荘園 (写真:バンド提供)

荘園 (写真:バンド提供)

どのバンドもテクニック的に大変素晴らしいのは、音楽にはほぼ素人な私でもわかるのだが、いかんせん普通の音楽ライターみたいに「このギターがどうの」とか「あのドラムがああだ」みたいなことを私は書けやしない。というわけで、演劇ライターにしか書けない言葉で、それぞれのバンドを一言で評させていただくとすると、「Quaser」は安定したテクと社会派的な所が「日本プログレ界の燐光群」、「KADATH」は心に刃を隠しつつしっかりメロディを伝えてくる辺りが「日本プログレ界の阿佐ヶ谷スパイダース(ただし、物語性が強い作品の時の)」、「荘園」は言葉を介さずにひたすら重い圧をかけてくる雰囲気が「日本プログレ界の大駱駝艦」という感じだろう……。きっと言われた本人たちは、何のこっちゃわからんと思いますが、機会があれば観てみてください。多分シンパシー感じると思いますが、的外れだったら本当にすいません。

【動画】KADATH『死神』(Live)※過去のライブより


【動画】Show-Yen(荘園)「THE POWER of THE EARTH」※過去のライブより


さてこの3バンドが終わり、いよいよ次は金属恵比須の登場だ。舞台上には武田花菱の幟がセッティングされ、粛々とヘッドライナーを迎える準備が整えられる。にしても、それぞれのバンドは大体4~5曲ぐらいしか演奏しなかったはずだが、この時点ですでに開演から2時間半が経過。合間に10分ぐらいのセットチェンジの時間を挟んでいたとはいえ、さすがプログレのライブ、ナイロン100℃や劇団☆新感線並みに長い。

そして20時40分頃、会場全体が暗転し、客席からは歓声が上がる。「うわー、つい2日前に観た唐組みたいなやあ」と感心するが、音楽のライブでは暗転→歓声ってのは割と普通の流れだと思い直す。あかん、すっかり演劇脳だと軽く反省している間にも、ステージでは出囃子のように、金属恵比須のお約束だという『八つ墓村』の音楽が流れている。やがてメンバーが一人ずつステージに現れ、全員がそろった所でプレイされたのが、いきなり代表作の『ハリガネムシ』だ! 唐組で言ったら、芝居が始まったらすぐに紅テントの後ろが開いて、唐十郎が現れるようなもんだよ!! 一番オイシイ所を思い切って冒頭に持ってくるとは、これはライブ全体の内容に相当自信がないとできないことだろう。そしてこのカマシは吉と出たようで、客席ではすでに多くの人がリズムに合わせて身体や頭を動かしている。

金属恵比須 (撮影:吉永美和子)

金属恵比須 (撮影:吉永美和子)

演奏が終わると、次は早くもMCタイム。ヴォーカルの稲益宏美と高木を中心に、何ともまったりしたトークが繰り広げられる。高木が「神戸は第二の故郷です!」と力強く宣言して、観客が温かく応えると「これはBon Jovi​がよく使ってるネタです」とネタバラシしたり、この少し後のMCでは「神戸牛をどこで食べたか」なんて割とどうでもいい話が出たり。しかし先程までの鬼気迫る演奏と、このトークのゆるゆるさのギャップよ。観客の笑いが思ったより多いのも、この緊張と緩和の大きさにあるのかもしれない。緊張と緩和、これ演劇の笑いを作る上でも大変大事なことだよ。

ギター、ヴォーカルの高木大地 (撮影:吉永美和子)

ギター、ヴォーカルの高木大地 (撮影:吉永美和子)

続いての曲は、歴史小説家・伊東潤の長編小説『武田家滅亡』を元に、現在制作中だというコンセプト・アルバムの中から、ズバリ『武田家滅亡』。2曲目でいきなり未発表の新曲を持ってくる辺りも、大変思い切った構成だ。思い切り過ぎて、適切な演劇の例えが思い浮かばない。しかしプログレというよりは、割とビートの効いたノリのよい曲ということもあり、観客はさらにノリノリ。サビの「武田家! 滅亡!」の連呼では、腕を振り上げてレスポンスする人も何人かいた。何だよ、プログレって椅子に座ってテクニカルな演奏に静かに耳を傾けるもんじゃなかったの? 普通にロックのライブだよこれ。

ヴォーカル、パーカッションの稲益宏美 (撮影:吉永美和子)

ヴォーカル、パーカッションの稲益宏美 (撮影:吉永美和子)

『武田家滅亡』が終わると、間髪入れず『破戒​』『みつしり』の2曲が続く。安部公房『箱男』を元にしたコンセプト・アルバムからの2曲だ。『破戒』は、高木がリードヴォーカルのヘヴィーなナンバー。あおるような叫びと、おどろおどろしい語りかけを使い分けながら、箱男の世界への呪詛を表現する。リードヴォーカルを譲った稲益はというと、トライアングルや木魚などのパーカッションで、サウンドに彩りを添える。最初ライブの画像でこの木魚を目にした時は「プログレに木魚って何の冗談だ?」といぶかしんだものだが、実際に観ると、歴史モノとか日本の近代文学をテーマにした楽曲が多い金属恵比須とは、ビジュアル的にもサウンド的にも意外と親和性が高いことがわかった。

金属恵比須 (撮影:吉永美和子)

金属恵比須 (撮影:吉永美和子)

これに続けて、まるでその呪いから吹っ切れたような『みつしり』に移る。プログレというよりL.A.メタルを思わせる、明るい疾走感のある楽曲だ。このヘヴィからライトへのあざやかな変化で、会場のムードも一転してヒートアップ。この構成のメリハリが、観客をまったくあきさせず、かといって疲弊させることもない、絶妙な空気を作り上げているんだなあ。演劇でも「ひたすらハイテンションな芝居でも、ちゃんとお客さんがホッとできる時間作るの大事」みたいな話をした演出家いてたもんなあ。

何と18年ぶりに[チキンジョージ]のステージに立ったという、ドラムの後藤マスヒロ。重戦車のような響きでバンドのサウンドを支える (撮影:吉永美和子)

何と18年ぶりに[チキンジョージ]のステージに立ったという、ドラムの後藤マスヒロ。重戦車のような響きでバンドのサウンドを支える (撮影:吉永美和子)

ここまでの観客のポジティブな反応に、すっかり固さの取れたMCに続けて、次は『阿修羅のごとく』『猟奇爛漫』を続けてプレイ。『阿修羅のごとく』は向田邦子の名作ドラマにインスパイアされた、ドラマティックなバラード。女性たちの秘めた情念や怒りのこもった曲を、稲益は慈しむように、寄り添うように歌い上げて場を圧倒する。しかしそれに続く『猟奇爛漫』では、高木のヴォーカルに合わせて、金切り声でツッコミを入れるという夫婦漫才のような場面も。この数分の間にクルクルとキャラクターを変える様は、下手な舞台女優よりも変身度は上だよこれ。

1年前に加入したばかりの、ベースの栗谷秀貴。どんなに早くて複雑なリズムも安定して奏でる技術は、ビリー・シーンに例えられたほど (撮影:吉永美和子)

1年前に加入したばかりの、ベースの栗谷秀貴。どんなに早くて複雑なリズムも安定して奏でる技術は、ビリー・シーンに例えられたほど (撮影:吉永美和子)

「愛する女性のお風呂のお湯になりたい」という、何とも変態チックな『猟奇爛漫』では、高木いわく「今関東で大流行」だという「猟奇爛漫体操」を観客全員がうながされる場面もあった。両腕を広げて、痙攣させるように大きく動かすという「知ってる、これ暗黒舞踏の公演で観たことある!」な奇妙なダンスを、驚くことにほぼ一見さんなはずの観客の大半が実践していて、何だか間違ってゾンビの館にでも来てしまったような気分に。しかしさすが関西、こういう妙なリクエストに対してもお客さんのノリが良い。ちなみにセットリストによると『猟奇爛漫』の中には、Rainbow『Stargazer』、Black Sabbath『Into the void』がさりげなく挿入されてたそうなんだけど、全然気づきませんでした。すいません。

「猟奇爛漫体操」の見本を見せる高木大地 (撮影:吉永美和子)

「猟奇爛漫体操」の見本を見せる高木大地 (撮影:吉永美和子)

「猟奇爛漫体操」に巻き込まれるオーディエンスたち (撮影:吉永美和子)

「猟奇爛漫体操」に巻き込まれるオーディエンスたち (撮影:吉永美和子)

わずか1時間程度とは思えないほど濃厚なパフォーマンスを見せて、ライブは終了。しかし当然すぐにアンコールがかかり、アルバム『ハリガネムシ』収録の『イタコ』をプレイした(ちなみにここでも、Deep Purpleの『Mistreated』『Burn』を曲中にインサート)。サウンドはハードコアながらもコミカルな感じだけど、その内容たるや娘をイタコにするために、父親は娘の目をつぶす……という、江戸川乱歩的にグロテスクなもの。そんな物騒な曲にも関わらず、観客たちは立ち上がって踊り狂い、「イタコ!」の声に合わせて拳を振り上げ、嬉々としてメンバーたちとハイタッチまでしている様は、よく考えたら(私も含めて)狂ってる。しかし舞台の上も下も狂っているけど楽しい。最早ここは狂気のパラダイスだ。

キーボードの宮嶋健一。ラストではキース・エマーソン張りのグリッサンドを見せたり、客席に飛び込む場面も (撮影:吉永美和子)

キーボードの宮嶋健一。ラストではキース・エマーソン張りのグリッサンドを見せたり、客席に飛び込む場面も (撮影:吉永美和子)

最後にはメンバーたちが武田の幟を振り回し、舞台上で観客たちと記念撮影をして、金属恵比須関西初公演は、熱狂的かつなごやかに幕を下ろした。しかし何だろうなあ、この楽しさ。先程もちょっと触れたけど、1時間のライブの中でお客さんがどういう感情を抱いたり、体力的に着いていけるかというのを、あらかじめ想定しながらセットリストやプレイスタイルを考えてるという印象がある。これって「どういう見せ方をすれば、この脚本を効果的にお客様に届けることができるか」を考える、演劇の演出と完全に通じている。なるほど、これが金属恵比須の“シアトリカル”の所以か。

金属恵比須 (撮影:吉永美和子)

金属恵比須 (撮影:吉永美和子)

そして彼らの楽曲を改めてライブで聞いてみて思ったのは、演劇……特にミュージカルは、プログレッシブ・ロックとかなり相通じるものがあるということだ。まずどっちも、楽曲が非常に技巧的。変拍子とか曲調が変化するとか当たり前だし、プログレ同様10分近いロングナンバーだってザラにある。特に小説やドラマなどを元にした作品が多い金属恵比須の楽曲およびコンセプト・アルバムは、一つの物語を音楽に乗せて見せ(聴かせ)るミュージカルと、何ら変わりはないではないか! 実際スターレス髙嶋だって、ミュージカルの舞台に数多く出演していらっしゃるっしな。

稲益宏美&後藤マスヒロ (撮影:吉永美和子)

稲益宏美&後藤マスヒロ (撮影:吉永美和子)

というのを考慮した上で、例の「日本のプログレバンドを劇団にたとえたら」で金属恵比須を評価するとしたら、私はこう言いたい。

「金属恵比須は日本プログレ界の劇団☆新感線である」

しっかりした技術を持ち、重々しい時代劇もコミカルなネタ芝居も自由自在。何よりも新感線のキャッチコピー「エンターテインメントか死か」という、ロックスピリッツと観客へのサービス精神を両立させた言葉が、プログレというジャンルを問わずこれほど似合うロックバンドもあるまい。というか『阿修羅のごとく』なんて、新感線の舞台で流れてもマジで違和感ないし。演劇ファン……特に新感線やミュージカルマニアの皆様にはぜひ一度聞いてほしいと思うし、演劇を観たことがない金属恵比須マニアの皆様におかれましても、ぜひ新感線やミュージカルの舞台に足を運んでいただきたいものだ。公演によってはチケットが激戦なのがアレですが。

終演後に記念撮影をする金属恵比須メンバーたち&オーディエンス。 (撮影:吉永美和子)

終演後に記念撮影をする金属恵比須メンバーたち&オーディエンス。 (撮影:吉永美和子)

終演直後の金属恵比須 (写真:バンド提供)

終演直後の金属恵比須 (写真:バンド提供)

そしてライブ終了直後には、高木より以下のような言葉をいただいた。

2003年の青森、2006年のメキシコ以来、3度目の遠征であり、実に12年ぶりの関東以外でのライヴ。しかも関西、神戸。文化圏のまったく違う地ではたして私たちの「プログレ観」が通用するのか。
「音楽に国境はない」とはいうが、ライヴというのは音楽を届けるだけではなく、演出やMCを含めてすべてを掛け合わせたものである。関東のノリで、はたして受けいれられるのか……。
「猟奇爛漫」にて「猟奇爛漫体操」を会場全体で行なった。痙攣運動しながら「猟奇爛漫~」と叫び続けるのだが、見事に会場全体が痙攣運動。中にはスタンディングで踊り狂う方までも。あたかも踊り念仏状態。
そうか、これでいいのか。終演後、お客様から「ノリが関西向きやね」と感想をいただく。そうか、そうだったのか。このノリは関西に通用するノリだったのか。
次回は新しい「体操」を編み出す次第である。


というわけで、今後関西では親しみを込めて「金属えべっさん」と呼ばれるんじゃないかと思えるほど、関西の地にディープインパクトを残していかれた金属恵比須。すぐにでも関西に戻ってきて、新しい体操を猟奇的に披露していただきたいと願っている……が、大きな気がかりが一つある。

ライブの前に高木は、会場のすぐ隣にある、神戸の中心的な神社「生田神社」で「神戸の皆様とのご縁を結ぶために」と縁結びのお守りを購入し、それをギターのペグに付けていた。が、途中でギターヘッドをアンプに激しくこすりつけるなどの、ピート・タウンゼント張りのラフプレイが仇となったのか、終演時にギターからはそのお守りが消え失せていた……どうか生田さんの神罰が当たって、せっかく結んだ関西とのご縁が消え失せることなく、再び関西に足を踏み入れることができますようにと。それだけを深く祈らずにはいられない。

開演間もない頃、高木のギターには確かに生田神社の御守が付いていた。  (撮影:吉永美和子)

開演間もない頃、高木のギターには確かに生田神社の御守が付いていた。  (撮影:吉永美和子)

取材・文=吉永美和子

『ジャージー・ボーイズ』主演、中川晃教が大阪で会見&インタビュー

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「僕の30代の代表的な役は、このフランキー・ヴァリかなと思っています」

アメリカのポップグループ「フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ」の軌跡を、彼らのヒット曲に乗せて見せていくミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。2016年に日本で初演を迎えるや否や、またたく間に大評判となり、その年の数々の演劇賞を受賞するに至った。この成功の大きな要因となったのが、「天使の声」と称されたフランキー・ヴァリの歌声を見事に体現した、中川晃教の存在だろう。彼自身「この作品に出会えたのは奇跡」という舞台が、2年ぶりに東京で再演されるのを皮切りに、全国5ヶ所で初上演されることに。その中川が大阪で行われた会見で、本作への意気込みや、ミュージカルに対する思いについて熱く語った。その模様を、一部単独取材でうかがった発言も交えて紹介する。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』宣伝ビジュアル。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』宣伝ビジュアル。

■「あの年まで歌い続けられるか?」という気持ちを重ねることができる役。

──まず初演当時のことについて、聞かせていただけますか?

フランキー・ヴァリ役を手中に収めるまでのプロセス自体、初めて経験することが多かったですね。この役だけは(アメリカ)本国のプロデューサーで、フォー・シーズンズのメンバーでもあるボブ・ゴーディオさんのOKをいただかないといけないんです。それでまず、3曲のデモ・テープと歌唱してる姿を送って、合格したら次はそれが6曲に増える。というのもフォー・シーズンズの楽曲は、初期・中期・後期で音楽性が進化していくし、それにともなってヴァリの声の出し方もだいぶ変わるんです。その発声のコントロールも含めて、キッチリ審査を受けました。

──かなり念入りですね。

最初(主催の)東宝さんから「この役は中川さんしかいない」と言われて「わかりました、やります!」と答えた後で、そういうオーディションがあると聞いて「え、これ決まってる話じゃないの?」って(笑)。そのためにトワング(※ヴァリの声を出すのに必要な発声法)を収得するのに苦労して「これできないかも」って思ったけど、東宝さんは「できる」と……でもそう言われると、やっぱり意地もあるし、その気持ちにも応えたいじゃないですか?「絶対できる」と思って勉強して、半年以上かけて発声できるようになって、オーディションでOKをいただいて、ようやく日本で上演することが許されたと。だから初演を迎えた時の重みが、他の作品とは全然違いました。

──トワングって、具体的にはどのようなトレーニングをするのでしょうか?

歌唱法というよりも、音声学、医学のレベルの話です。身体のどこの筋肉を使えば、この高い声を出すことができるかという。まず自分のニュートラルな声をちゃんと整えた上で、喉や身体全体の仕組みを考えつつ、自分の個性も合わせていって、ヴァリの声を出すための筋肉を鍛えていく。それはだから、アスリートの訓練と同じですよ。初演が終わってからも2年間レッスンを続けましたし、昨日も行ってきた所です。

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

──単に高い声を出そうとするのとは、かなり違うものなのですね。

たとえば……これ、ちゃんと文字にしてくださいますか?(笑)普通の裏声だと「シェーェリー♪」(※劇中にも登場するヒット曲『シェリー』の一節)って感じですけど、トワングだと『シェェェェェリィィィィー♪』……これぐらい違うんです。

──この表現で伝わるかどうか不明ですが、今部屋の空気のふるえ方が全然違いました!

でもこの訓練は、単に自分を鍛えるものではなく、フランキー・ヴァリになるためにあるわけですからね。その目標がはっきり見えているという意味では、やり甲斐があります。とはいえ初演の時は、全41ステージを毎回ちゃんとクリアできるかどうかが、すっごいプレッシャーだったんです。いつもの自分の声だったらできる自信はあるんですけど、フランキー・ヴァリの声は、初めて自分が出会う声だったんで。実際全ステージが終わった後は、「もっとできたんじゃないか?」ってくやしさがありました。だから再演ができることがすごく幸せだなあと、今実感しています。

──中川さんはミュージシャンでもあるので、音楽業界の光と影を描いたこの作品とヴァリのキャラクターには「これ、同じミュージシャンとしてすごくわかる!」と感じた所も多かったのではないでしょうか?

すごくありますね。僕は18歳でデビューしたんですけど、その前と後では「こんなにも世界が変わるんだ」というのを実感しましたし。そして追い風に乗っているように順調な時もあれば、行き詰まって自分で風を作らなきゃいけない時期もある。そのせいで、グループ内の関係性が変化するというのも……僕はソロですけど、すごく理解できる話なんです。でもそんな浮き沈みの激しい世界の中で、紆余曲折を経ながらも今なお現役で歌い、スターであり続けているフランキー・ヴァリに対する尊敬の気持ちが、僕にとっての入口だったと思うんです。「自分もあの年まで歌い続けることができるんだろうか?」って。しかもヴァリって、今現在の方がいい声をしてるんですよ。歌手としてその気持ちを重ねることができるというのが、僕にとって一番つながっている部分です。

──これからの自分の人生を、ちょっと先取りできたというか。

……まさにその言葉を導き出したかったかのようでしたね、僕の今の話。言ったからには、そうならなきゃいけないなあ(笑)。この役を演じるに当たって、特にヴァリ本人から何かをいただいたということはないんですけど、ヴァリについてこういう風に感じている僕自身の中から、きっと僕なりのフランキー・ヴァリが作れているんじゃないかと。こんなに「ぴったりハマってる役ですね」と言っていただけるのもすごいことだし、この役と出会えたのは運命ですね。僕の10~20代の代表的な役が(『モーツァルト!』の)モーツァルトだとしたら、30代はフランキー・ヴァリかなと実感しています。

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

■ハーモニーが芝居を作るので、再演ではヴァリの声をもっと追求したい。

──初演の時に苦労した点は。

カンパニーが一つになることですね。この物語は本当によくできていて、(ザ・フォー・シーズンズの)4人の物語が春・夏・秋・冬の4つに分かれていて、季節ごとにストーリーテラーがバトンタッチしていく。つまり4人とも主役なんです。まずトミー・デヴィートがヴァリをエンターテインメントシーンに導いて、グループとして出発するのが春。夏は作曲家のボブ・ゴーディオがヴァリの歌声を聴いてグループに加わり、大きな転機を迎える。そしてグループの要となっていた、ニック・マッシが脱退するのが秋。そしてヴァリは娘を亡くし、グループも危機を迎えるけれど、そんな冬のような季節でも生きていく、歌い続けるという。「フォー・シーズンズ(四季)」というグループ名に掛けた構成は、この作品の見どころの一つだと思います。

──その構成はクリント・イーストウッド監督の映画版でも、キチンと踏襲されてましたね。

時系列も曲目も、ほぼほぼ一緒のはずです。日本版の藤田俊太郎さんの演出では、アンサンブルのメンバーも全員が、常に舞台上にいることを要求されまして、それによって「みんなでこの舞台を作る」という認識が植え付けられていきました。ただ「最後に愛は勝つ」じゃないですけど(笑)、何が最後の勝利になるかは、作品によって毎回違うんですよね。それでいうとこの作品は、それぞれのパートを担っているメンバー4人の……特に歌によって生まれる圧倒的な存在感によって、決定的に決まってくるものが大きいと思ったんです。だから稽古場の段階からお互いがちゃんとコミュニケーションを取って、舞台で何かアクシデントが起こった時も、この4人なら大丈夫というぐらい完ぺきな状態を作っていくという。その状態を作るための緊張感や集中力の持続が、一番苦労した所でした。

──中川さん以外のキャストは「WHITE」と「RED」(再演では「BLUE」)に分かれてましたが、それぞれのチームの違いを教えていただけますか?

「RED」は各々がチーム内での自分の役割をしっかり見つけて、それを全うしながらも余裕を感じさせるようなメンバーでしたね。だから偶発的に生まれたことも、とても効果的に芝居の中に入れてきたりしてました。「WHITE」は全員がすごくフレッシュな気持ちを持っていて……たとえば映画で興味を持って、初めてミュージカルの舞台を観に来たお客さんでもすぐにオープンになれるような、そんなピュアさを感じました。今回はREDに変わって「BLUE」が加わるわけですけど、やっぱりBLUEはBLUEの特色やこだわりが出てくるんじゃないかなあと。まだ稽古が始まってないからわからないですけど、ちょっと熱い、波乱万丈なチームになる予感がしています(笑)。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』REDチームの時の中川晃教(2016年7月東京初演より)。 [写真提供]東宝演劇部

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』REDチームの時の中川晃教(2016年7月東京初演より)。 [写真提供]東宝演劇部

──中川さんのヴァリも、やはりチームによって違いはあったんでしょうか?

演出はどちらも変わらないんですよ。「WHITEはこう」「REDはこう」というのはまったくなくて、どっちも同じものを作ろうとしているけど、人間が変われば印象が変わるし、僕が演じるフランキー・ヴァリも変わっていく。ここがこの舞台のミソなんです。変えようと思ってなくても、変わるという。そのためにもぜひ両方観ていただいて(笑)「同じことをやってるはずなのに、なぜここまで違うんだろう?」という所を楽しんでもらいたいです。

──再演では、どういう所を追求していきたいですか?

まず僕の中では、フランキー・ヴァリのあの声を磨き続けること。ミュージカルって、やっぱり声で役を表現するものだし、芝居という観点から役の声が生まれてくるという意味では、ヴァリの声は僕自身の声じゃない。この声こそが、フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズのハーモニーの、大きな特徴なんです。でもみんながヴァリの声に合わせようとした時に、その声がちょっとでもズレると、全部がズレてしまう。そういう意味での協調性というか、ハーモニーが芝居を作っている。もっと言ったらヴァリの声が、このカンパニーを作ること、空気感を作ること、全部につながってくるので、本当に奥が深い。なのでやっぱり、声を追求していきたいです。

──そして東京以外の場所で、初めてこの作品を披露することになりますが。

本当に「お待たせしました!」という気持ちです(笑)。特に大阪公演の劇場って、新歌舞伎座じゃないですか? この作品って世界中のカンパニーで上演されてるんですけど、「これが日本のカンパニーだ」って言えるような場所でやれるのは、ちょっと誇らしいですね。

僕はこれまで何度か新歌舞伎座の舞台には立ってるんですけど、やっぱり普段からミュージカルを上演している劇場とは全然客層が違うし、ミュージカルの面白さとこの空間ならではの面白さがマッチした時の感動とか、スケールみたいなものをまだ探している所なのかな? と思いました。初演と演出を変えるとは言われてないんですけど、この劇場の特性や魅力に僕らがアジャストしていこうとする過程で、大阪ならではの『ジャージー・ボーイズ』が生まれるんじゃないかと思っています。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』WHITEチーム(2016年7月東京初演より)。 [写真提供]東宝演劇部

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』WHITEチーム(2016年7月東京初演より)。 [写真提供]東宝演劇部

■ミュージカルが別の時代を迎える中で、「自分にできることは何だろう?」と。

──この作品に触れたことで、改めてミュージカルについて考えたことや、感じたことなどは、何かありますか?

何か一言では言い表せないような、僕とミュージカルの関係というのは確かにあります。19歳で『モーツァルト!』に出演した時は、ここまでミュージカルに出るとは思ってなかったんですけど、自分の「やりたい」という思いだけでは見られないような景色を、たくさん見せてもらっている気がするんです。シンガーソングライターという所から、ミュージカルに挑戦したことによって……しかも初めて出会った役が、音楽家の役ですからね。自分の一番の武器であり、一番自分が自分であると思える「歌」の部分、特に詩に対する表現がすごく変わってきたので、そこはミュージカルをやっていて良かったと思います。

と同時に、今『グレイテスト・ショーマン』や『ラ・ラ・ランド』など、巷でミュージカルが盛り上がっている中で、自分ができる役割は何だろう? と考える視点が生まれてきました。たとえば『グレイテスト・ショーマン』はポップスが、『ラ・ラ・ランド』ではジャズがミュージカルになるという。これまでの時代のミュージカル……たとえば『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』とは、また別の時代に来てるんじゃないかと思うんです。

──ヒップホップ音楽でヒットした『ハミルトン』もその象徴ですよね。

しかもあれ、リン=マヌエル・ミランダが作詞・作曲・主演を全部一人でやってますからね。何であんなことができるんだろう?(笑)そうやって“別の時代”に来ていることを自覚し、体験もさせていただきながら、自分なりの視点で今のミュージカルの大きな流れ、そして自分にできることを考えていきたいです。

この『ジャージー・ボーイズ』を含めた新しい時代のミュージカルに、日本のお客さんが熱狂するということは、やっぱり日本のミュージカルシーンでも何か新しい部分や、これをきっかけに生まれてくる可能性があるんじゃないかと。それが今後、日本のオリジナルミュージカルを作ることにもつながっていくと思います。それは舞台でもいいし、映画でもいい。『グレイテスト・ショーマン』だって、映画が先なわけですから。

──そんな中で、日本のミュージカル界がまだ気づいてなくて、ぜひ引き出してほしいと思っている、中川晃教の魅力みたいなものってありますか?

自分でそれを言うのが面白いですよね(笑)。うーん……この前コンサートで『オペラ座の怪人』を歌ったんですよ。あのファントムの声って、自分の中にはない声だと思ってたんです。でも僕も35歳になって、だんだん太い男っぽい声が出るようになってきたので、ファントムみたいな役もできるんじゃないかなと思い始めました。だから今まで「身長がないからできない」と思われていた役でも、意外とやれる役がいっぱいあるんじゃないかなあ……身長の話かい!(笑)

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

──それでは改めて、再演に向けての抱負をお聞かせください。

「中川晃教がこれから何をやっていくのか?」という所に、一つ自信を持たせてくれたと同時に、まだ足りないものがあることにも気付かせてくれたのが、このフランキー・ヴァリだったんです。そして完成することはない。いつまでも完ぺきを求めたいけど、いつも何かを一つクリアすると、まだその先に次の課題が待っているという。でも30代になった自分が今まで経験してきたことを経て、力を試されて、力を発揮できるような作品に出会えているなあと思うんです。

まずは、お客様の最後の拍手を通じて「観に来て良かった。明日から頑張ろう」って思っていただけたんだなあ……って感じられるように、しっかりと準備していきたいと思います。でも一方で「この作品でミュージカルを初めて観ます」というお客様が多いという、間口の広さもこの作品の特徴なので、それで余計に再演を気負ってしまっていた気がするんです。

──そのお客様が、今後もミュージカルを見続けてくれるかどうかの試金石になるという。

でも、この2年間で目標を明確にして課題をクリアしてきたことで、実はちょっとした自信が自分の中で生まれているということにも、今日こうしてお話することで気づきました(笑)。やっぱり初めての方にも、ミュージカル界全体にいい印象を感じてもらえるような作品だと思うし、そして今回の地方公演での反応が、再再演に向かっていくキーになるんじゃないかと。『モーツァルト!』が長らく愛されているように、『ジャージー・ボーイズ』っていうミュージカルも愛されるように取り組んでいきたいです。

──一生この役を大切に、自分以外に演じて欲しくないぐらいにしていこうと?

いやいや、「次のフランキー・ヴァリが、そろそろ現れてくれー!」って思ってます(笑)。もちろんこの役はずっとやり続けたいですけど、日本で『ジャージー・ボーイズ』がもっともっと広がっていくためには、別の側面で僕ができることもあるんじゃないかなあと。だからそのためにも、ますます頑張ろうと思います。

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018 父の日ギフト「コーヒー付きチケット」期間限定で発売決定

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2018年8月1日(水)より東急シアターオーブにて上演される、ブロードウェイミュージカル「レント」来日公演2018の父の日ギフトとして「コーヒー付きチケット」が期間限定で発売されることが決定した。

本公演は、ピューリッツァー賞、トニー賞、オビー賞など各賞を総なめにし、ブロードウェイミュージカルの歴史を変えた傑作ミュージカルだ。プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をもとに、エイズ、ドラッグ、同性愛、友の死……様々な問題を抱えながらも夢を諦めず懸命に生きる若者たちの姿を描いたストーリーと、それを包み込む美しい音楽は、世界中の人々に生きる勇気と希望を与えてきた。なかでも、「Seasons of Love (シーズンズ・オブ・ラブ)」は、今を生きることの大切さや愛情、友情の尊さを教えてくれる代表曲で、“52万5600分=1年を何で数えるか?”というテーマは、当たり前のように過ぎていく日常を振り返り、感謝することの大切さを気付かせてくれる。

夜が明けた数、コーヒーを飲んだ数、笑った数、友情や愛の数……525,600分、あなたは何で数える?
(「Seasons of love」より抜粋)

本代表曲の歌詞にあるコーヒーを父の日に、名作ミュージカルとともに味わってみるのはいかがだろうか。本公演の観劇体験と、観劇の合間に飲む特別な1杯のコーヒーをプレゼントして、普段は中々言えない感謝の想いを伝えてみよう。親子で過ごすことのできる限られた時間が、忘れられない体験になるはずだ。
チケット券面上部には「Happy FATHER’s day!いつもありがとう。日頃の感謝と愛を込めて。」の父の日特別メッセージも入るため、記録にも記憶にも残る父の日になるだろう。

 

父の日ギフト「コーヒー付きチケット」販売概要

販売期間:6月4日(月)12:00〜6月17日(日)23:59 

販売プレイガイド:
イープラス http://eplus.jp/rent2018/

※チケット券面上部には「Happy FATHER’s day!いつもありがとう。愛に溢れる日々を。」の父の日特別メッセージが入ります。
※画像はイメージです。

注意事項:
※公演日当日の開場中、休憩中に劇場内の「THE THEATRE BAR(シアターバー)」(2階席ホワイエ)にて、チケット1枚につきコーヒー(ホット・アイス)1杯とお引き換えいただけます。
※ドリンク引換券はいかなる場合(紛失・忘れなど)でも再発行は致しません。引換券をお忘れの場合、お引き換え頂けません。
※ご利用なき場合のご返金は致しかねます。

開幕まで1ヶ月! ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018 来日ツアー全キャスト発表!

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ブロードウェイミュージカル「レント」来日公演2018 が、2018年8月1日(水)から8月12日(日)まで東急シアターオーブにて上演される。いよいよ開幕まで1ヶ月となった本ミュージカルの全ツアーキャストが発表された。発表されたのは、登場人物であるマーク役、ロジャー役、ミミ役、エンジェル役、コリンズ役、ジョアン役、モーリーン役、ベニー役の8人だ。

本ミュージカルは96年にトニー賞、ピューリッツァー賞など多くの賞を総なめにしたジョナサン・ラーソン作詞・作曲・脚本で、プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」を下敷きに、未来に不安を感じ、差別や偏見、孤独などと闘いながらニューヨークの街の片隅で生きる、名も無き若者達の物語を描いた作品だ。2016年に生誕20周年を記念して上演された「20周年記念ツアー来日公演」は連日のソールドアウトを記録し、日本中を興奮させた。早くも2年ぶりの来日公演となる本公演の開幕を多くのファンが待ち望んでいる。

ストーリー
20世紀末のNY・イーストヴィレッジ。クリスマスイブの夜、荒廃したアパートの家賃さえも払えない映像作家志望のマークとミュージシャンのロジャーは、先の見えない時代に不安を募らせる。ロジャーと出逢うナイトクラブダンサーのミミ、愛を育むコリンズとエンジェル、マークの元カノでパフォーマンスアーティストのモーリーンに翻弄される恋人のジョアン。かけがえのない友情、狂おしい葛藤、そして訪れる永遠の別れ……。季節が過ぎ、2度目のクリスマスイブを迎えた時ー。

 

ISSA(DA PUMP)がフック船長「皆さんの思っている以上に返す」~38年目のミュージカル『ピーターパン』制作発表

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2018年7月から8月にかけて東京、大阪、金沢、名古屋で上演されるミュージカル『ピーターパン』。今年で38年目を迎える人気ミュージカルの制作発表会見が7月4日(木)に東京都内で行われた。登壇者は7人。昨年に引き続き演出を務める藤田俊太郎。同様に昨年から続投となるピーターパン役の吉柳咲良。新たなフック船長/ダーリング氏役として、DA PUMPの新曲が再ブレイクを果たし今乗りに乗るISSA。新ウェンディ役として、元AKB48の河西智美。新タイガー・リリー役として、ミュージカルを中心に舞台で活躍する莉奈。そしてダーリング夫人役続投の入絵加奈子に、ライザ役続投の久保田磨希である。。

オープニングは、イントロを聞くだけですぐにピーターパンの世界にひたることができる「アイム・フライング」を吉柳咲良が熱唱。その後、株式会社ホリプロ代表取締役社長・堀義貴のあいさつに続いて、出演者が登壇した。

熱唱する吉柳咲良

熱唱する吉柳咲良

まずは演出家の藤田俊太郎が、2年連続ミュージカル『ピーターパン』の演出を手掛ける意気込みを語った。

演出:藤田俊太郎

昨年から引き続きの演出ですが、出演者が変われば演出も変わります。新作のつもりで新鮮な気持ちで挑戦をしております。メディアやニュースを見ると、目を覆いたくなるような、耳をふさぎたくなるようなそんな出来事があふれていますが、そんな今だからこそ、ワクワクするピーターパンの永遠に続く美しい世界を描き、ピーターパンの夢を守り続けたいと思っています。20世紀初頭から世界中でピーターパンが上演されていますが、その中でもきちんとした1ページを刻めるような、そんな作品をお客様に届けたいと思っています。

以下、出演者のあいさつを紹介する。

ピーターパン役:吉柳 咲良

ピーターパン役2年目になります。昨年よりもまた違ったプレッシャーや座長の重みがありますが、自分のことでいっぱいいっぱいだった昨年よりも技術面やセリフのいい方なども変わってきたと思っているので、そういうところも含めて頑張りたいと思っています。

フック船長/ダーリング氏 役:ISSA

このお話をいただいたときに「俺でいいのかな」と思いました。でも受けた仕事は皆さんの思っている以上に返すというのが自分の喜びだと思っていますので、一生懸命やらさせていただきたいと思います。メイクしたり衣装を着たりするとスイッチが入るものだなと思っています。みんなで作品力をあげて本番を迎えたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。

ウェンディ役:河西 智美

何年も私は、夏になると『ピーターパン』を楽しみに観てきました。実はずっと「ウェンディをやりたいです」と事務所の人に言い続けてきて、やっとこうしてお話をいただきました。ウェンディの衣装を着て素敵なキャストの皆さんと一緒にステージに上がり、ようやく実感がわいてきました。観客として『ピーターパン』を観ているときは、いつもワクワクして、ハッピーをたくさんもらっていたので、今度は私が皆さんにハッピーを届けていきたいということを一番大事にして頑張っていきたいと思います。この歳でツインテールもつらいなと鏡を見て思ったのですが、1カ月でそういうメンタルも鍛えて(一同爆笑)、頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

タイガー・リリー役:莉奈

昔からタイガー・リリーという役に密かに憧れていたんですけれども、私がいただく役ではないだろうと思い込んでいました。ですので、その願いを誰にも言うことなく胸にしまい込んでいました。タイガー・リリー役に決まったときは、驚きと喜びで胸がいっぱいで、その喜びとともに歴史のある素晴らしい作品に出させていただく責任感やプレッシャーなども感じつつ、毎日稽古をしています。私は今まで劇中で死ぬ役ばかり演じてきたので(笑)、最後まで生き残り、戦いに戦いぬく生命力あふれた役というのはこんなに疲れるんだという思いです。稽古場の机の上にはアミノ酸をいっぱい置き、日々飲みながら、戦うタイガー・リリーを演じています。本番もたくさんアミノ酸を飲んで(一同爆笑)、かっこいいと思ってもらえるタイガー・リリーを演じたいと思っています。頑張ります!

ダーリング夫人役:入絵 加奈子

昨年に引き続きダーリング夫人役として『ピーターパン』に携われること、本当にうれしく思っております。本当にありがとうございます。昨日粗通し稽古というものがあり、私は初めて2018年版『ピーターパン』の全容を観ました。素晴らしいです! 今年はバージョンアップしております。藤田さんの演出もさらにブラッシュアップされていて、キャストの皆さん、一人ひとり役がぴったりなんです。皆さんの役がぴったりだということが、2018年版『ピーターパン』のさらに大きな力となっています。私は藤田演出家より「高貴なグレース・ケリーでお願いします」と言われております。役というのは心で演じるものでございますから、一生懸命、心で演じてまいりたいと思います。

ライザ役:久保田 磨希

2017年に引き続き、今年も大好きな『ピーターパン』の世界に戻ってこられたことを心から感謝しております。昨日粗通し稽古のあと、改めて藤田さんが「目指しているのは世界レベルのピーターパン」という大きな言葉を言ってくださいました。ブロードウェイミュージカルでありながらファミリーミュージカルであるということは、子どもが理解できて世界レベルの完成度を目指す作品という難しいところに、今年のピーターパンカンパニーは挑戦しています。ライザのことを少し言わせてもらいますと、今年のライザは昨年と少し違います。ブラッシュアップされた今年は、ライザの目線を通した『ピーターパン』の世界となっています。ですので私は、お客様の目線に立ってお客様を誘導しながらどれだけ『ピーターパン』の世界を楽しんでいただけるかという責任感を背負ってピーターパンを見つめています。昨年とは10倍も100倍も違う『ピーターパン』、新しいカンパニーの『ピーターパン』2018をどうぞよろしくお願いいたします。

出演者あいさつ後の質疑応答で、ピーターパンを演じる吉柳咲良に対し、「昨年に引き続いてピーターパンを演じる上で、取り組んでいることや心に留めていることがあるか」と質問が投げかけられると、吉柳は「藤田さんからいただいた言葉ですけど、ピーターパンは永遠に少年の物語で、子どものまま成長していくと。確かにそうだなと思っています。私も昨年の『ピーターパン』が終わってから1年間、いろいろなレッスンを積んできて、技術面が向上してセリフも1年目とは変わってきたなと思っているので、永遠に少年のまま成長していくピーターパンというのは、1年間で成長した私が今回見せるべきところなのではないかと思っています」と、なんともたくましい答えが返ってきた。成長した吉柳をはじめとして、バージョンアップしたピーターパンに今年も期待したい。

取材・文・撮影=吉永 麻桔

ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018 キャストと一緒に熱唱できる、スペシャルアンコールの開催が決定

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ブロードウェイミュージカルの歴史を変えた傑作ミュージカル『レント』が、2018年8月1日(水)から8月12日(日)まで東急シアターオーブにて上演される。本公演は、ピューリッツァー賞、トニー賞、オビー賞など各賞を総なめにし、初演から20年以上経った今もなお、「No day but today(あるのは今日という日だけ)」というメッセージで世界中に生きるエネルギーを与え続けている。本公演の開幕が控えるなか、この夏『レント』を盛り上げるためのスペシャル企画(全3弾)が決定した。

【来日直前!この夏『レント』を盛り上げよう企画<第1弾>】には、2公演限定で、キャストと一緒に「シーズンズ・オブ・ラブ」を歌うことができる、スペシャルアンコールが開催される。『レント』の代表曲であり、CMなどでも使用され、本ミュージカルを観たことがなくても誰しも一度は耳にしたことがあるブロードウェイミュージカルの名曲中の名曲「シーズンズ・オブ・ラブ」。「525,600分。一年を何で数える?」というフレーズは、当たり前のように過ぎていく1日1日がどれほどかけがえのない時間なのかということを教えてくれる。そんなブロードウェイの名曲をスペシャルアンコールでもう一度聴くことができるだけでなく、観客も一緒に歌うことができる夢のような企画だ。舞台上のバンドの生演奏とキャストとの一体感は、舞台だからこそ体験できる、感動の瞬間となることは間違いないだろう。

本編を観てインプットし、一緒に歌ってアウトプットできる『レント』史上初の企画で、本公演を盛り上がるための第2弾、第3弾の企画にも期待したい。


劇団四季『キャッツ』新たな専用劇場をお披露目!「キャッツ・シアターは思い出を辿る場所」

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1983年の日本初演以来、各地で巡演され続けている劇団四季のミュージカル『キャッツ』。8月11日からの東京公演ロングランに向け大井町に建設された専用劇場の内覧会が行われ、内部の模様がメディアに公開された。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

まずは専用劇場の大きな特徴である回転席のデモンストレーション。オーバーチュアの響きの中、開演前は舞台奥に設置されている回転席が180度回る様子にテンションが高まる。

続いて劇団四季 代表取締役社長の吉田智誉樹氏、本作の振付・演出スーパーバイザーを担う加藤敬二氏、舞台美術家の土屋茂昭氏が登場し、それぞれの思いや『キャッツ』の歴史が語られたのだが、加藤氏の発表に会場内がザワつく一幕も。というのも、1998年の福岡公演にあたり、細かな箇所も含めて約300カ所の改定が行われた『キャッツ』が今回の東京公演で新たな変貌を遂げるという文言があったからだ。加藤氏から語られた演出・振付の変更点の大枠は以下の通り。

『キャッツ』振付・演出スーパーバイザー 加藤敬二氏(撮影:上村由紀子)

『キャッツ』振付・演出スーパーバイザー 加藤敬二氏(撮影:上村由紀子)

1 ジェニエニドッツ(おばさん猫)に登場するゴキブリたちのタップシーンが変わる(手足や身体に金具を付け、ボディパーカッション的な振付を施す案も)。

2 マンゴジェリーとランペルティーザ(泥棒猫)の曲調を一新し、より激しく迫力のある雰囲気に。

3 初演以来封印されてきたランパスキャット(けんか猫)のナンバーが復活。

音楽に関しては1984年のBW版より『キャッツ』に携わっているクリステン・ブロージェット氏が音楽監督として来日し、すでに俳優達と稽古を重ねているとのこと。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

四季の初演版から舞台美術を担当している土屋氏は「楽しい空間をつくることが僕の仕事」と笑顔で劇場を見渡し「この劇場は”キャッツ”という作品を上演するためだけに作られたもの。初演時からただ一つの作品のために劇場を作るというのは世界的にも例がない。それを劇団四季は初めてやった。この劇場内にあるものはすべて”キャッツ”のためだけにあるんです」と語り「その一部、特殊な機構ををお見せしましょう」と劇中劇・海賊猫グロールタイガーの場面で使われる装置のデモを行った。それまでただの壁だった場所から海賊船の装置が降りてくる様子は何度体感しても心が踊る。

舞台美術家 土屋茂昭氏(撮影:上村由紀子)

舞台美術家 土屋茂昭氏(撮影:上村由紀子)

また、キャッツ・シアターの特徴のひとつ”ゴミのオブジェ”だが、これらは猫の目で見た大きさで作られており、通常の3倍のサイズとなっている。劇場入り口付近にはその感覚を楽しんでもらうため、なるべく大きな”ゴミのオブジェ”を配置しているそう。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

さらに土屋氏は続ける。「なぜ、キャッツ・シアターでなければならないのか、それは2幕冒頭でオールド・デュトロノミー(長老猫)が歌う”幸せの姿”のように、この劇場は猫たちと観客とがともに思い出を辿る場所だからです。ここに捨てられている3000点のゴミにはすべて誰かの思い出が詰まっている。だから、ゴミを見た瞬間にそれが何であるのか分かるよう作っています」。

1983年、初演時の劇場仕込みの際には、紙ゴミばかり飾られていたという。その様を見た演出家から「それは違う」と指摘され、”思い出”をキーワードに新たにゴミのオブジェを作り直したそうだ。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

また『キャッツ』で1番心に残る、胸に響くシーンは?という質問に対し、吉田氏は「エンディングです。私はこの作品を観るたびに、明日も頑張って生きようと思えます。きっとお客さまもそうだと信じています」。自身もマジック猫のミストフェリーズとして長らく本作に出演してきた加藤氏は「2幕最後、グリザベラが”ジェリクルキャッツ”となり天上に昇り、オールド・デュトロノミーが”猫からのごあいさつ”を歌う場面。グリザベラを選んだのはじつはオールド・デュトロノミーではなくほかの猫たち。自分より他者の幸せを願う猫たちの真っ直ぐな表情に胸を打たれます」。そして土屋氏は「論理的には”メモリー”が好きですが、暗闇の中で盆が回り、光の中にタントミールが立ち上がっていく……このワクワクする感じが舞台装置家として1番好きですね」とそれぞれの想いを語った。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

なお、この日、土屋氏からユニークな発表もあった。それは3000点のゴミの中に、ただひとつ四つ葉のクローバーが飾られているということ。三つ葉のものは複数あるそうなので、ここはぜひ四つ葉のクローバーを見つけて幸運をつかんで頂きたい。『キャッツ』恒例のご当地ゴミと併せて注目ポイントだ。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

世界に類を見ない専用劇場、3000点にも及ぶゴミのオブジェ、つねに進化し続けるミュージカル……初演時から100回以上この作品の客席に座り、24匹の猫たちの生き様を観続けてきた観客のひとりとして、大阪公演を終えた猫たちがどんな進化を遂げて6年振りに首都圏に帰還するのか……その姿に出会うのが今から楽しみでならない。

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季 キャッツ・シアター内覧会(撮影:上村由紀子)

劇団四季ミュージカル『キャッツ』は2018年8月11日(土・祝)より、キャッツ・シアター(東京・大井町)にてロングラン上演される。なお、本年11月11日には日本初演35周年を迎え、2019年3月には1万回の上演達成予定。

取材・文・撮影=上村由紀子

綿引さやか出演、LAハリウッドボウル「美女と野獣」イン・コンサートのステージ写真を公開

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主にミュージカルの舞台で活躍する女優・歌手の綿引さやかが、2018年5月25日(金)26日(土)に、米ロサンゼルス(LA)の野外劇場ハリウッド・ボウルで行われた「美女と野獣」イン・コンサート(Beauty and the Beast IN CONCERT)に出演した。このほど、ステージ写真が届いたので紹介する。

「美女と野獣」イン・コンサートは、ディズニーの名作「美女と野獣」を大スクリーンで鑑賞しながら、フルオーケストラの演奏と共に歌やパフォーマンスを楽しむ音楽イベントであり、今年の5月に米ロサンゼルスの野外劇場ハリウッド・ボウルで開催された。

日本からこれに参加したのが、綿引さやかだ。綿引は日本国内では『赤毛のアン』(アン役、ダイアナ役)、『レ・ミゼラブル』(エポニーヌ役)、『ジャージーボーイズ』(メアリー役)などの活躍で注目を集めてきた人気ミュージカル女優である。

そんな彼女、今年2月に日本武道館で行われた「リトル・マーメイド」イン・コンサートに出演し、ディズニー音楽の巨匠アラン・メンケンと共演を果たした際に、プロデューサーのリチャード・クラフトからハリウッドボウルの出演を打診された。考えた末にチャレンジすることを決意した彼女は、そこから猛勉強に励んだという。

子供のときからディズニーが大好きで、とりわけ大切に思っていた作品が「美女と野獣」だった。単身LAに渡り、約2週間のリハーサル中は共演キャストやスタッフからの協力も経て、無事本番に臨むことができた。SPICEではそんな綿引にインタビューを実施し、気になることなど詳しく聞きだす予定。乞うご期待。

なお、綿引は8月に「東京ディズニーリゾート35周年“Happiest Celebration!”イン・コンサート」(東京国際フォーラム)に出演、9月からは日比谷シアタークリエを皮切りとする『ジャージー・ボーイズ』全国公演ツアーに参加する。

「美女と野獣」作曲家のアラン・メンケンと会場客席で

「美女と野獣」作曲家のアラン・メンケンと会場客席で

ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018 選べるスペシャル特典付きチケットが期間限定で発売決定

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公演がいよいよ来月となったブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018(2018年8月1日(水)から8月12日(日)まで東急シアターオーブにて上映)が、期間限定で、選べる特典付きチケットの販売が決定した。

特典は、映画『レント』DVD付きチケットとオリジナルクリアファイル付きチケットの二種類で、どちらもファンには堪らないチケットだ。DVD付きチケットは、初演から9年後に、自身も「レントヘッズ」を自認するクリス・コロンバス監督(『ハリー・ポッターと賢者の石』ほか)によって製作された映画版『レント』がチケット1枚につきDVDが1枚ついてくる。また、クリアファイル付きチケットはA4サイズで本公演オリジナルのクリアファイルだ。DVDと同じく、チケット1枚につき1点のお渡しとなっている。

DVD付きチケットを購入し、本公演を観劇前に予習or観劇後に復習するもよし、公演観劇記念にもなるオリジナルクリアファイルをゲットするもよし。どちらもこの夏の『レント』を一層楽しめること間違いなしのチケットだ。

映画版『RENT / レント』​

ブロードウェイ版開幕から9年の歳月を経て2005年に実現した、「レントヘッズ」を自認するクリス・コロンバス監督(『ハリー・ポッターと賢者の石』ほか)による映画版。マーク役のアンソニー・ラップ、ロジャー役のアダム・パスカルほか、主要オリジナルキャスト8名のうち6名が舞台版と同じ役で出演している。

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

映画「レント」DVD付きチケット 

販売期間:7月14日(土)〜23日(月)
対象席種:S席
対象公演:平日公演のみ
※特典は公演当日、特典引換所にて本券提示の上、お受取りください。
※特典はチケット1枚につき1点のお渡しとなります。
※特典引換券の忘れ・紛失の場合はお引換できません
※特典未引換の場合でも換金はできません

オリジナルクリアファイル付きチケット

販売期間:7月14日(土)〜23日(月)
対象席種:S席
対象公演:平日公演のみ
※特典は公演当日、特典引換所にて本券提示の上、お受取りください。
※特典はチケット1枚につき1点のお渡しとなります。
※特典引換券の忘れ・紛失の場合はお引換できません
※特典未引換の場合でも換金はできません
※クリアファイルはA4サイズ

ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018 を盛り上げる企画第2弾 初日オープニング祝賀会に参加できる特別参加券をプレゼント

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2018年8月1日(水)から8月12日(日)まで東急シアターオーブにて、ブロードウェイミュージカル『レント』来日公演2018が上演される。開幕を直前に控え、この夏、本公演を盛り上げるためのスペシャル企画第2弾【来日直前!この夏「レント」を盛り上げよう企画】が発表された。
第2弾には、本公演の魅力をSNSで拡散する企画、ハッシュタグ 「 #私とレント 」キャンペーンが決定した。動画でも、写真でも、言葉でもOK。あなたの「レント」愛や、「レント」との思い出をSNSで投稿した方の中から、抽選で5名様に、開幕初日、公演終了後に行われる「初日オープニング祝賀会」に参加できる”特別参加権”がプレゼントされる。

キャンペーン期間:2018年7月14日(土)〜7月28日(土)

★「No day but today」あるのは今日という日だけ。
当たり前のように過ぎてゆく1日1日の大切さや、友情や家族愛の尊さなど、沢山の深い愛に溢れるブロードウェイミュージカル「レント」。
あなたの愛をSNSで投稿して、RENTの素晴らしさを広めませんか?

★ SNSでの投稿方法は自由。
RENTへの想いを歌に込めて動画を投稿するも良し、RENTとの思い出写真やお気に入りの歌詞を紹介するも良し、心の奥底にしまい込んでいるRENT愛を思いっきり語るも良し。思い思いの形でRENTの素晴らしさを広めてもらえたら嬉しいです!

★「初日オープニング祝賀会」に参加できる!
ブロードウェイミュージカル「レント」は8月1日より、東急シアターオーブにて開幕。投稿者の中から抽選で5名様に、開幕初日、公演終了後に行われる「初日オープニング祝賀会」に参加できる”特別参加権”をプレゼントします!

「初日オープニング祝賀会」
開催日時:8月1日(水)19:00初日公演終了後@東急シアターオーブ
※当日の集合場所や開催場所はご当選者のみにご連絡いたします。
※初日オープニング祝賀会へのご参加にご都合がつかないご当選者様には、粗品を贈呈いたします。(公演会場にて、ご来場時にお渡しいたします。)

応募方法

1) ブロードウェイミュージカル「レント」来日公演の公式Twitterアカウントまたは公式Instagramアカウントをフォロー。

公式Twitter:‪@Rent2018Japan‬‬‬  https://twitter.com/Rent2018Japan

公式Instagram:rent2018japan 

2) ハッシュタグ「#私とレント」をつけて、TwitterまたはInstagramで投稿。

当選発表

当選発表日:7月29日(日)中予定
当選された方には、TwitterまたはInstagramの公式アカウントよりダイレクトメッセージにてご連絡いたします。

応募規約
※Twitterアカウントを非公開にしている場合、応募対象外になりますのでご注意下さい。
※ダイレクトメールを受信拒否設定している場合、当選連絡をすることができないため、応募対象外となります。
※ブロードウェイミュージカル「レント」来日公演2018公式アカウントへのフォローが解除されている場合、当選後のダイレクトメッセージの送信ができないため、当選無効となります。
※通知させていただいた期間内に返信がない場合は、当選権利を放棄したものとさせていただきます。
※ご当選権利の第三者への譲渡や転売は固くお断りいたします。
※ご応募の結果に関するお問い合わせには対応できませんので、あらかじめご了承ください。
※初日オープニング祝賀会へのご参加にご都合がつかないご当選者様には、粗品を贈呈いたします。(公演会場にて、ご来場時にお渡しいたします。)

お問い合わせ:
キョードー東京 0570-550-799 (平日11-18時/土日祝10-18時)

「レント」で人生が変わった、「レント」に出逢えてよかった、もっと「レント」を沢山の人に知って欲しい! など、少しでも「レント」を愛する気持ちのある方ならどなたでも参加が可能。来日開幕まであと2週間! 「レント」愛が日本中に広まるよう、SNSで投稿しよう。

サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』2018製作発表レポート ~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』第19回

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【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』
【第19回】サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』2018製作発表レポート

前回はこちら

2017年12月14日、2018年の丸美屋食品ミュージカル『アニー』(主催・製作:日本テレビ放送網/協賛:丸美屋食品工業)の製作発表が東京汐留・日テレホールにて行われた。厳しいオーディションで選ばれた二人のアニー役・新井夢乃(アライ ユメノ)、宮城弥榮(ミヤギ ヤエ)、そして大富豪ウォーバックス役・藤本隆宏、孤児院の院長ハニガン役・辺見えみり、ウォーバックスの秘書グレース役・白羽ゆり、ハニガンの弟ルースター役・青柳塁斗、その恋人リリー役・山本紗也加らが登壇。その模様を、「【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』 」 連載中の筆者がレポートする。

1986年に日本テレビ主催により日本での上演がスタートしたミュージカル『アニー』の舞台は、世界大恐慌直後の1933年、真冬のニューヨーク。誰もが希望を失う中、本当の両親が迎えに来る「明日」を信じて生きている孤児・アニー。そしてアニーをとりまく個性あふれる孤児たち、一筋縄ではいかない大人たちが繰り広げるストーリー展開と、「Tomorrow」等の美しい楽曲で、これまでのべ172万人もの観客に感動を与え続けてきた。

日本での上演は2018年で33年目を迎える。2017年には翻訳台本、振付、舞台美術、衣裳なども一新し、山田和也が新演出を担当(【連載第9回】参照)。完売回が相次ぎ、当日券は長蛇の列となった。その2017年に引き続き2018年も、演出は山田和也、音楽監督は佐橋俊彦、振付・ステージングは広崎うらんが担当する。

さて、『アニー』ファンにとって大きなニュースがこの日、発表された。何と、サンディの犬種が2018年から変わることとなった!!!

新サンディ

新サンディ

第一回公演の1986年から今年2017年まで、日本版『アニー』で野良犬サンディを勤めてきたのはオールド・イングリッシュ・シープドッグだった。しかし、2018年からはレトリバーの血を引くミックス犬に変更になる。どうりで丸美屋食品コーナーおなじみのサンディが今回いないと思った……。

会見会場内に設置された丸美屋食品コーナー

会見会場内に設置された丸美屋食品コーナー

新しいサンディは、舞台初挑戦となる。

中山良夫 日本テレビ放送網株式会社 取締役執行役員より「今回、北海道から新しいサンディが来るので、温かい目で観てください」とのこと。配布された資料によると「物覚えがよく、トレーナーの指示を忠実に守ることができるため、よりきめ細かい演技で、これまで以上に活躍してくれるでしょう」とあった。

「だから、2018年の『わくわくDAY』のプレゼントに、『サンディのぬいぐるみ』がないのか……!」と、独り言が出そうになる筆者だった。

中山良夫 日本テレビ放送網株式会社 取締役執行役員

中山良夫 日本テレビ放送網株式会社 取締役執行役員

続いては阿部豊太郎 丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長が登壇、「2018年は、辺見えみりさんがキャスティングされ、2006年の辺見マリさん以来の親子2代という粋なキャスティングで、どんなハニガンになるか期待しています。山田和也演出版も2年目となるので、よりいっそう洗練された楽しい舞台になるでしょう。どうぞご期待ください」と述べた。

阿部豊太郎 丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長

阿部豊太郎 丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長

次に、出演者たちの挨拶。今年2017年に引き続き、2018年も大富豪ウォーバックス役を演じる藤本隆宏は、周囲から「今年は笑顔が多いね」とよく言われたとのこと。アニーと出会って変わったウォーバックスそのものだ!

藤本隆宏

藤本隆宏

阿部社長からの期待を背負う孤児院の院長ハニガンを演じる辺見えみりは、アニーたちにつらくあたる役だが、藤本隆宏が「辺見さんは、TVでは歯に衣着せぬ物言いだが、実際はすごくおだやかで優しい方」と述べると、辺見は「営業妨害やめてください(笑)」。彼女は「12歳の時に初めて観た作品に出られるとは。母が(2006年に)ハニガン役をやっているのも観て、この役をいつかやりたいと思っていた。母も喜んでくれたので、迫力を持って演じたい」

辺見えみり

辺見えみり

大富豪ウォーバックスの秘書グレース役には、宝塚娘役トップとして活躍したことで知られる白羽ゆり。『アニー』出演の2018年には芸歴20周年を迎える彼女、「3~4年前に初めて『アニー』を観て、自分も頑張りたい、とパワーをもらった。グレースをやってみたいと思っていたので、私も夢が叶いました」。

「まっすぐで真面目なグレースが、アニーに出会って母性や恋やお茶目さを出してゆくことが楽しみ」という白羽に、藤本も「ウォーバックスはグレースがいないと何もできない。頼りにしている」と語る。

白羽ゆり

白羽ゆり

悪だくみの中心人物となって物語を動かすルースター役には、前回からの続投、青柳塁斗。2017年では、登場のたびに笑いが起きていたキャラクターだ。「2年目は、悪だくみ・愛されキャラにもっと磨きをかけ、辺見えみりさんとアイデアをポンポン出して頑張りたい」

青柳塁斗

青柳塁斗

ルースターの恋人・リリー役の山本紗也加(こちらも前回からの続投)は「私もリリーの悪だくみ・チャーミングさを、前回以上にパワーアップさせたい」

山本紗也加

山本紗也加

そして、いよいよアニー役の新井夢乃、宮城弥榮の登場だ。ともに小学5年生、舞台上のアニーと同じく11歳である。新井は「チーム・バケツ」、宮城は「チーム・モップ」のアニー役。

アニーに決まった時に嬉しくて泣いた新井は「アニーは前向きで優しい。私自身もそれをお客さんに届けたい」。ダンスが得意で、2017年『アニー』ダンスキッズのオーディションも受けたという宮城は「明るく、優しくて、皆に『いいな』と思ってもらえるアニーになりたい」と抱負を語った。皆の希望となるアニー役らしく、弾ける笑顔が印象的な2人だった。

新井夢乃

新井夢乃

宮城弥榮

宮城弥榮

【質疑応答】

--(続投する藤本・青柳・山本へ)2017年に山田和也の新演出で印象的だったこと、また、2018年への思いは?

藤本「実はダメ出しを1つもらっていて、自分の中でクリアできていない。感動の渦に自分が入ってしまって、ウォーバックスはもっと強くなければ、大人でなければならないのに、泣きすぎてしまった。2018年はそれを克服したい」

青柳「ルースターは、出てくるたびにテンポを変化させて、というリクエストがある。(アニーの親に)変装して出て来たり、切り替えが一番大事。別の人が出て来たと思わせてくれ、という指示をもらっています」

山本「同じく、アニーを騙して親になりすますシーンは別人に見えてほしいという注文を受けています。2018年はさらにアニーを騙せるように演じたい!」

--『アニー』の中で好きな楽曲は?

青柳「(自分が歌う)『Easy Street』と言いたいが、『ここが好きかもね(I Think I'm Gonna Like It Here)』。華やかで、アニーの可愛らしさと、グレースの優しさ、アニーを可愛がっていることが伝わって好き」

辺見「(自分が歌う)『Easy Street』。ハニガンは歌い出しはノッてないけれど、弟に言われて徐々にノッていく感じ、悪党3人の感じがすごく好き」

藤本「『Tomorrow』。ここからすべてが広がる、特別な一曲」

白羽「『Tomorrow』。客席でも頑張ろうという勇気をもらえたが、今度はグレースとして、2人のアニーが歌うのを聴いてどう感じるのか楽しみ」

山本「『N.Y.C.』。本当のN.Y.C.を見たくて、『アニー』終わりに本当にニューヨーク(タイムズスクエア)に行ったくらい。オケの音も美術も好きで、キャスト一同盛り上がる曲だと思う」

新井「全部好きだけど、『ハードノックライフ(It's the Hard Knock Life)』が特に好き。普段は怒ったり怒りをぶつけることはないけれど、お芝居で高音で歌って踊るのが楽しい」

宮城「私も『ハードノックライフ(It's the Hard Knock Life)』。高音も低音もあるし、すごく迫力のある曲だと思う」

合格発表の時は、友だちには話していなかったというアニー2人だが、新井「ネットニュースを見て、『すごいね』『おめでとう』『観に行くね』と言ってくれた子もいるし、何も言わない子もいた(笑)」、宮城「皆に『すごいね』『知らなかった』と言われた。皆、ネットをよく見てるな、と思いました」と、現代っ子ならではの事情で取材陣を笑わせた。

(左から)新井夢乃、宮城弥榮

(左から)新井夢乃、宮城弥榮

2017年は頭髪のあるウォーバックスを演じた藤本は「2017年は歴代の最年少だったから……今年は、もしツルツルにしろと言われればやりますよ」と、意欲的に語った。

辺見は「初めて2世で良かったと思った。(母と)一緒に演じるよりも、同じ役をやるほうが幸せ。これは自分にしかできない」。彼女の夫・松田賢二は2012年、2014年に、ハニガンの弟ルースター役で『アニー』に2度出演していることから、「アニー一家ですね。娘さんと親子3代というのは?」と問われる場面も。

2018年の『アニー』も、楽しくなりそうな予感がいっぱいの会見だった。

(前列左から)新井夢乃、宮城弥榮、(後列左から)山本紗也加、白羽ゆり、藤本隆宏、阿部豊太郎・丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長(ルーズベルト大統領に非ず)、辺見えみり、青柳塁斗

(前列左から)新井夢乃、宮城弥榮、(後列左から)山本紗也加、白羽ゆり、藤本隆宏、阿部豊太郎・丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長(ルーズベルト大統領に非ず)、辺見えみり、青柳塁斗

丸美屋食品ミュージカル『アニー』2018年の本公演は2018年4月21日(土)~5月7日(月)、新国立劇場 中劇場で上演。8月より福岡・大阪・新潟・名古屋にて公演予定(日程は下記参照)。東京公演のチケットは2017年12月16日(土)発売。全席指定8,500円。ただし、4月23日(月)・24日(火)は特別料金「スマイルDAY」全席指定6,500円。また、4月25日(水)13時公演 / 17時公演は「わくわくDAY」として、観客全員に『アニーのくるくるウィッグ』『オリジナルエプロン』『非売品バッジつきミニバッグ』『キャップ』の中から1点がもれなくプレゼントされる。

また、2018年のアニーに今すぐ会いたい人に朗報!今年2017年末に行われる「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」でお披露目が行われる。2016・2017・2018年アニー&アニーズ、2017年・2018年ウォーバックス役の藤本隆宏、2017年秘書グレース役の彩乃かなみに加え、1995年アニー役の水野貴以、1997年シャーリー役・2001年ダフィ役の清水彩花、2006年アニー役の服部杏奈という、ミュージカル界で活躍するアニー卒業生3人の出演が決定している。2017年12月22日(金)18:00、23日(土・祝)12:00/15:00/18:00、新国立劇場 中劇場にて。チケットは好評発売中。



<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず! 
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト

[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』製作発表レポート
※上記のうち2017年4月21日以前の掲載内容は新演出版と異なる部分があります。

次回に続く

公演情報
丸美屋食品ミュージカル『アニー』2018

【東京公演】
■日程:2018年4月21日(土)~5月7日(月)
■会場:新国立劇場 中劇場
■チケット発売:2017年12月16日(土)
■料金:全席指定8,500円
※4月23日(月)・24日(火)は特別料金「スマイルDAY」全席指定6,500円
※4月25日(水)13時公演 / 17時公演は「わくわくDAY」
(観客全員に『アニーのくるくるウィッグ』『オリジナルエプロン』『非売品バッジつきミニバッグ』『キャップ』の中から1点をもれなくプレゼント)
 
【福岡公演】
■日程:2018年8月4日(土)~8月5日(日)
■会場:福岡市民会館

 
【大阪公演】
■日程:2018年8月9日(木)~8月14日(火)
■会場:シアター・ドラマシティ

 
【新潟公演】
■日程:2018年8月26日(日)
■会場:新潟テルサ

 
【名古屋公演】
■日程:2018年8月31日(金)~9月2日(日)
■会場:日本特殊陶業市民会館
 
■出演:
アニー:新井 夢乃 / 宮城 弥榮
ウォーバックス:藤本隆宏
ハニガン:辺見えみり
グレース:白羽ゆり
ルースター:青柳塁斗
リリー:山本紗也加 
ローズベルト大統領:伊藤俊彦

 
男性アンサンブル:伊藤広祥、大竹 尚、鹿志村篤臣、谷本充弘、森 雄基、矢部貴将
女性アンサンブル:岩﨑ルリ子、神谷玲花、川井美奈子、坂口杏奈

 
<チーム・バケツ>
アニー役:新井 夢乃 (アライ ユメノ)
モリー役:尾上 凜 (オノエ リン)
ケイト役:歌田 雛芽 (ウタダ ヒナメ)
テシー役:音地 美思 (オンジ ココロ)
ペパー役:田中 樹音 (タナカ ジュノン)
ジュライ役:山下 琴菜 (ヤマシタ コトナ)
ダフィ役:藤田 ひとみ (フジタ ヒトミ)

 
ダンスキッズ:
大川 惺椰 (オオカワ セイヤ)
大谷 紗蘭 (オオタニ サラ)
大星 優輝 (オオホシ ユウキ)
齊藤 芯希 (サイトウ シキ)
平井 蒼大 (ヒライ ソウタ)
山中 莉緒奈 (ヤマナカ リオナ)

 
<チーム・モップ>
アニー役:宮城 弥榮 (ミヤギ ヤエ)
モリー役:島田 沙季 (シマダ サキ)
ケイト役:込山 翔愛 (コミヤマ トア)
テシー役:林 歩美 (ハヤシ アユミ)
ペパー役:武藤 光璃 (ムトウ ヒカリ)
ジュライ役:河﨑 千尋 (カワサキ チヒロ)
ダフィ役:山本 樹里 (ヤマモト ジュリイ)

 
ダンスキッズ:
東 未結 (アヅマ ミウ)
高橋 奈々 (タカハシ ナナ)
髙橋 有生 (タカハシ ユイ)
田中 愛純 (タナカ アズミ)
廣瀬 奏空 (ヒロセ ソラ)
宮原 咲心 (ミヤハラ ニコ)​
 
■主催・製作:日本テレビ放送網株式会社
■協賛:丸美屋食品工業株式会社
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/

 
公演情報
アニークリスマスコンサート2017
 
■構成・演出: 小川 美也子
■出演予定: 
藤本 隆宏 / 彩乃 かなみ
水野貴以(1995年アニー役)、清水彩花(1997年シャーリー役・2001年ダフィ役)、服部杏奈(2006年アニー役)
2016年/2017年/2018年アニー&アニーズ
■会場:新国立劇場 中劇場 (京王新線・初台駅)
■日時:
2017年12月22日(金)18:00開演
2017年12月23日(土・祝)12:00/15:00/18:00開演
開場は開演時間の各30分前
■席種・料金:全席指定:6,900円(税込)
■チケット一般発売:2017年10月21日(土)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。
※チケットはお一人様1枚必要。

新旧演出版のアニーたちが最後の共演!『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート~【THE MUSICAL LOVERS】Season 2 ミュージカル『アニー』【第20回】

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【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』
【第20回】新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート

前回はこちら

「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」(通称:クリコン)が、2017年12月22日(金)・23日(土・祝)に行われた。上演された最新年(2017年)とその前年(2016年)のアニー&アニーズがショーを担当、最後に翌年(2018年)のアニーズをお披露目するクリコンは、日本『アニー』独自の伝統文化だ。筆者にとっても、2016年・2017年・2018年の『アニー』を取材し続けているので(※本頁「公演記録」下の注記を参照)、思い入れもひとしおである。

今回は2016年・2017年・2018年のアニー&アニーズ、2017年・2018年ウォーバックス役の藤本隆宏、2017年秘書グレース役の彩乃かなみに加え、1995年アニー役の水野貴以、1997年シャーリー役・2001年ダフィ役の清水彩花、2006年アニー役の服部杏奈という、ミュージカル界で活躍する『アニー』卒業生3人が出演した。そのステージがあまりにも素晴らしかったので、メモリアルをかねてレポートさせていただく。


2017年、ミュージカル『アニー』は山田和也による新演出となった。そしてクリコンも、これまではオリジナルのストーリーが展開される中で『アニー』の楽曲やクリスマスソングを披露、という形から一新し、コンサート形式となった。そしてミュージカル『アニー』の本編と同様、佐橋俊彦が音楽監督を、福田光太郎が指揮をつとめた。構成・演出は小川美也子、振付は小山みゆき、タップ振付は藤井真梨子。

今回の見どころのひとつは「2016年ジョエル・ビショッフ演出版に出演したアニーズの卒業」だ。ジョエル演出時代の衣裳や、タップキッズも見納めとなる。ジョエル演出版&山田演出版の両アニーズがガッツリ組んで同じ舞台に立つのも、最初で最後の貴重な機会だ。

劇場ロビー

劇場ロビー

「オープニング・トゥモロー(Tomorrow)」によって華々しく幕を開けた2017年クリコン。藤本隆宏が登場し、2016年孤児たち、ストリートチャイルド、タップキッズ、2017年孤児たち、ダンスキッズを紹介すると、それぞれがショートパフォーマンスによって役柄をアピール。そして2016年アニー役の池田葵、2017年アニー役の野村里桜・会百花が紹介された。

大人数の「ハードノックライフ(It's The Hard-Knock Life)」では、「ハニガンなんて、クソくらえ!」と、威勢よくキック! 2014年映画『ANNIE』キャストによるTVパフォーマンスを彷彿とさせるアレンジである。

次の「メイビー(Maybe)」では雰囲気が一転。3人のアニー(池田・野村・会)が、美しいハモりと輪唱を、しっとりとアカペラで聴かせた(本頁冒頭写真)。

「N.Y.C.」では藤本のソロに始まり、彩乃かなみが得意の高音を響かせる。ミュージカル『アニー』本編で大人キャストがつとめる「未来のスター」部分のソロを、今回のステージでは野村・池田・会が順に担当。堂々と歌い上げていくその姿! アニーたちが、これからスターになってゆくかのような演出に、実力で応えた。

「フリードレス(Fully Dressed Without A Smile)」では、ジョエル演出版の名物だった「タイタニック」(ダフィが最年少のモリーを肩車しながら、ケイトを持ち上げて、ぐるぐる回転させる)の大技も飛び出し、会場が、そして筆者が泣いた! 涙越しの2016年アニーズは、力を出し切って、いつもより多く回っているように見えた。

「2人でいればいい(I Don't Need Anything But You)」は、2017年アニーの野村・会と藤本がリズミカルに見せる。そこへ「2人といいつつ、3人でしたね」と笑いを取った2016年アニーの池田が、タップキッズを高らかに紹介する。「我らが誇る、2016の精鋭たち!」

今回のクリコンで2016年ジョエル演出時代のアニーズは卒業、タップキッズは見納めとなるわけだが、この「TAP!」パフォーマンスが大迫力で猛烈に良かった。素晴らしすぎた。会場はヒートアップ。筆者も存分に拍手!

3人のアニーを従えた、藤本による「この心を満たすのは(Something Was Missing)」では、三者三様のロマンチックな振付が心に残る。

続く「ダンサブル・トゥモロー(Tomorrow)」は、明るさが際立つアレンジ。「トゥモロー」がいかに名曲であるかを強く物語った。

彩乃による「すてきなホリデイ」は某フライドチキンCMソングとしておなじみの、クリスマス気分を盛り上げる選曲だ。宝塚出身の彩乃に合わせ、クリスマスリース型のシャンシャン(宝塚歌劇のフィナーレで出演者全員が持つ、鈴の音のなる小道具)で華を添えるタップキッズ&ダンスキッズ。さらに、出演者たちが元気よく「クリスマスメドレー(「Santa Claus is Coming to Town」「ママがサンタにキッスした」「All I Want for Christmas Is You」「Winter Wonderland」)」を披露、新旧アニーズのハーモニーを存分に響かせる。「Santa Claus is Coming to Town」の、第一声の迫力たるや! 「ジングルベル」ではアニーズのソロも多く、聴かせどころたっぷり。「きよしこの夜」では、ハンドベルも披露するなど多彩に見せる。

今回のクリコンは、とにかくアレンジが耳に心地よく、センス抜群(音楽監督:佐橋俊彦)。特にその手腕が発揮されたのが「We Wish You A Merry Christmas」。アイリッシュなアレンジとタップの融合が見事。アニーズも難しいアレンジや複雑な振付をビシッとキメて魅せる。

「クリスマスキャロル・メドレー(「もろびとこぞりて」「あめには栄え」「もみの木」「ひいらぎかざろう」「荒れ野にみ使い」)」は、キリスト教学校で10年以上を過ごした筆者のツボを直撃。「ひいらぎかざろう」は、ミュージカル『アニー』本編でもおなじみなので、思わず笑顔にさせられる。

クライマックスはジョン・レノンが1971年12月に発表した「ハッピークリスマス(Happy Xmas (War Is Over))」。この曲の発表された翌年の1972年から、雑誌「ザ・ニューヨーカーズ」のライターだったトーマス・ミーハンはミュージカル『アニー』の脚本執筆にとりかかった。当時、1960年代から続くベトナム戦争がひどく泥沼化していた(米軍がベトナムから全面撤退するのは1973年3月)。その時代の空気を、大恐慌時代の「1933年のアメリカ合衆国」に重ね合わせつつ紡いだ物語がミュージカル『アニー』だったことは既に本連載で述べたとおり(【第10回】参照)。そういえば、今年新演出『アニー』を担当した山田和也の手掛けた別のミュージカル『ドッグファイト』(2017年12月大阪・東京、2018年1月愛知にて再演)では、ベトナム戦争へのアメリカ介入の一端が描かれていた。そのベトナム戦争にジョン・レノンが異を唱え平和を希求して作ったクリスマスソングこそ「ハッピークリスマス(Happy Xmas (War Is Over))」だったのだ。

その曲が今回、藤本のリードボーカル&アニーズのコーラスで歌われた。客席に降り立って、キャンドルのライトを灯す。アメリカ合衆国では、ベトナム戦争から撤退した後も「二度と同じ過ちを繰り返さない」と、キャンドル集会が行われていたことは、成田美名子の漫画『CIPHER(サイファ)』でも描かれている。

「War is over, if you want it(戦争は終わるよ、あなたが望めば)」というメッセージは、今の世の中でも、いや、今の世の中にこそ、心に沁みわたる。

客席降りの「ハッピークリスマス(Happy Xmas (War Is Over))」。ちなみに筆者の眼前には久慈愛が!

客席降りの「ハッピークリスマス(Happy Xmas (War Is Over))」。ちなみに筆者の眼前には久慈愛が!

ミーハンは、人々に希望を与える存在として、世の中の不安の中へ、アニーを降り立たせた。そして日本における32年間の『アニー』上演史において、たとえば1995年は、とりわけアニーが強く求められた年のひとつではなかっただろうか。あの1月17日、3月20日を超えて、私たちは生きなければならなかった。

その1995年にアニーを演じた水野貴以が、今回のゲストの一人目として登場した。続いて1997年シャーリー役・2001年ダフィ役を演じた清水彩花も現れ、水野と声を合わせる。篠崎光正演出時代から長年観劇している人々にとっては、フーバービル(連載【第4回】参照)の孤児(シャーリー、ジャネット、ポリー、アイリーン、シンシア)は懐かしいだろう。

そして最後に登場したゲストは、2006年アニー役の服部杏奈だ。このミュージカル界で活躍する『アニー』卒業生3人が歌ったのは「トゥモロー(Tomorrow)」英語バージョン。ワールドワイドに伝わる言語で、『アニー』卒業生3人が明日への希望を歌い上げる。憧れの先輩を見つめる池田・野村・会の、キラキラ輝く瞳。『アニー』のスピリットはこうして受け継がれてゆく。

さあ、いよいよフィナーレ。「アニーにもクリスマスソングがあります!」と藤本から紹介された曲はもちろん「ニューディール・フォー・クリスマス(New Deal For Christmas)」。

そしてお待ちかね、2018年アニーズが、舞台に集った!みんな、来年の『アニー』は任せたよ!!

2018アニーズ

2018アニーズ

いつの間にか、指揮の福田はじめオーケストラメンバーが、サンタ帽を被っているという、お茶目なサプライズ。会場全体での「トゥモロー(Tomorrow)」で、2017年クリコンの幕は閉じた。アニーズの元気な歌声に、弾む足取りで帰途についた筆者であった。

さて、当連載の今年の更新はこれでおしまい。来年もミュージカル『アニー』の記事を書いてゆきたいと思います。

2018年・犬年(サンディ・イヤー)も、どうぞよろしくお願いします!

文:ヨコウチ会長  写真:©NTV

公演記録
アニークリスマスコンサート2017
 
■会場:新国立劇場 中劇場 (京王新線・初台駅)
■日時:
2017年12月22日(金)18:00開演
2017年12月23日(土・祝)12:00/15:00/18:00開演

 
■構成・演出: 小川 美也子
■出演
(※2016年・2017年はメモリアルも兼ねて<欠席者>も記載します)
藤本 隆宏 / 彩乃 かなみ
水野 貴以(1995年アニー役)、清水 彩花(1997年シャーリー役・2001年ダフィ役)、服部 杏奈(2006年アニー役)

 
【2016アニー&アニーズ】
アニー役:<河内 桃子>・池田 葵
モリー役:桑原 愛佳・池下 リリコ
ケイト役:竹田 雛乃・田中 樹音
テシー役: 松山 結香・池田 遙花
ペパー役:<高橋 舞音>・井福 杏寿
ジュライ役:河賀 陽菜・<山口 のん>
ダフィ役:影山 実奈・阿部 日菜子

 
ストリートチャイルド役:五十嵐 陽菜・斎藤 日南
 
タップキッズ:
大井 新生・古賀 雄大・清水 錬・楢原 蓮琉・羽賀 悠仁・
山本 紫遠・稲田 有梨・小野 瑠奈・上口 優香・久保田 由姫・徳増 夏帆・早坂 友花

 
【2017アニー&アニーズ】
アニー役:野村 里桜・会 百花
モリー役:小金 花奈・今村 貴空
ケイト役:林 咲樂・年友 紗良
テシー役:井上 碧・久慈 愛
ペパー役:小池 佑奈・吉田 天音
ジュライ役:笠井 日向・相澤 絵里菜
ダフィ役:宍野 凜々子・野村 愛梨

 
ダンスキッズ:
大川 正翔・大場 啓博・木下 湧仁・庄野 顕央・菅井 理久・吉田 陽紀・
今枝 桜・笠原 希々花・加藤 希果・久保田 遥・永利優妃・筒井 ちひろ・生田目 麗・古井 彩楽・宮﨑 友海・涌井 伶

 
【2018アニー&アニーズ】
アニー役:新井 夢乃・宮城 弥榮
モリー役:尾上 凜・島田 沙季
ケイト役:歌田 雛芽・込山 翔愛
テシー役:音地 美思・林 歩美
ペパー役:田中 樹音・武藤 光璃
ジュライ役:山下 琴菜・河﨑 千尋
ダフィ役:藤田 ひとみ・山本 樹里

ダンスキッズ:
大川 惺椰・大谷 紗蘭・大星 優輝・齊藤 芯希・平井 蒼大・山中 莉緒奈
東 未結・高橋 奈々・髙橋 有生・田中 愛純・廣瀬 奏空・宮原 咲心

 
■STAFF:
構成・演出:小川美也子
音楽監督:佐橋俊彦
歌唱指導:青木さおり
振付:小山みゆき
タップ振付:藤井真梨子
タップ音楽協力:神尾修
舞台監督:廣田進
指揮:福田光太郎
主催・製作:日本テレビ
協賛:丸美屋食品
協力:キョードー東京、アサツー ディ・ケイ
 
<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー
 
公演情報
丸美屋食品ミュージカル『アニー』2018

【東京公演】
■日程:2018年4月21日(土)~5月7日(月)
■会場:新国立劇場 中劇場
■チケット発売:2017年12月16日(土)
■料金:全席指定8,500円
※4月23日(月)・24日(火)は特別料金「スマイルDAY」全席指定6,500円
※4月25日(水)13時公演 / 17時公演は「わくわくDAY」
(観客全員に『アニーのくるくるウィッグ』『オリジナルエプロン』『非売品バッジつきミニバッグ』『キャップ』の中から1点をもれなくプレゼント)

 
【福岡公演】
■日程:2018年8月4日(土)~8月5日(日)
■会場:福岡市民会館

 
【大阪公演】
■日程:2018年8月9日(木)~8月14日(火)
■会場:シアター・ドラマシティ

 
【新潟公演】
■日程:2018年8月26日(日)
■会場:新潟テルサ

 
【名古屋公演】
■日程:2018年8月31日(金)~9月2日(日)
■会場:日本特殊陶業市民会館
 
■出演:
アニー:新井 夢乃 / 宮城 弥榮
ウォーバックス:藤本隆宏
ハニガン:辺見えみり
グレース:白羽ゆり
ルースター:青柳塁斗
リリー:山本紗也加 
ローズベルト大統領:伊藤俊彦

 
男性アンサンブル:伊藤広祥、大竹 尚、鹿志村篤臣、谷本充弘、森 雄基、矢部貴将
女性アンサンブル:岩﨑ルリ子、神谷玲花、川井美奈子、坂口杏奈

 
<チーム・バケツ>
アニー役:新井 夢乃 (アライ ユメノ)
モリー役:尾上 凜 (オノエ リン)
ケイト役:歌田 雛芽 (ウタダ ヒナメ)
テシー役:音地 美思 (オンジ ココロ)
ペパー役:田中 樹音 (タナカ ジュノン)
ジュライ役:山下 琴菜 (ヤマシタ コトナ)
ダフィ役:藤田 ひとみ (フジタ ヒトミ)

 
ダンスキッズ:
大川 惺椰 (オオカワ セイヤ)
大谷 紗蘭 (オオタニ サラ)
大星 優輝 (オオホシ ユウキ)
齊藤 芯希 (サイトウ シキ)
平井 蒼大 (ヒライ ソウタ)
山中 莉緒奈 (ヤマナカ リオナ)

 
<チーム・モップ>
アニー役:宮城 弥榮 (ミヤギ ヤエ)
モリー役:島田 沙季 (シマダ サキ)
ケイト役:込山 翔愛 (コミヤマ トア)
テシー役:林 歩美 (ハヤシ アユミ)
ペパー役:武藤 光璃 (ムトウ ヒカリ)
ジュライ役:河﨑 千尋 (カワサキ チヒロ)
ダフィ役:山本 樹里 (ヤマモト ジュリイ)

 
ダンスキッズ:
東 未結 (アヅマ ミウ)
高橋 奈々 (タカハシ ナナ)
髙橋 有生 (タカハシ ユイ)
田中 愛純 (タナカ アズミ)
廣瀬 奏空 (ヒロセ ソラ)
宮原 咲心 (ミヤハラ ニコ)​
 
■主催・製作:日本テレビ放送網株式会社
■協賛:丸美屋食品工業株式会社
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/

『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編> ~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第21回】

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【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』
【連載第21回】『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>

前回はこちら

2018年丸美屋食品ミュージカル『アニー』も、いよいよ来月4月21日より開幕する。

出演者たちによる「歌稽古が始まりました」「ダンスのワークショップが始まりました」が、ツイッターのタイムラインに流れ、観劇への気持ちも高まる今日このごろ。早くもドキドキワクワクして、丸美屋の釜めし、丸美屋のふりかけ、丸美屋の麻婆豆腐を食べまくる毎日!

みんな~! 心の準備はできてる?!

そして、心の準備とともに、ここはひとつ『アニー』に登場するキャラクターや用語を予習・復習しておこう。というのも、「ウォーバックスの電話の相手は誰?」「アニーはウォーバックスに、どこでクリームソーダを食べたらって言われているの?」「執事ドレークは第一幕の最後、何て叫んでいるの?」など、観劇しながら色々な疑問が湧いてくるかもしれないからだ。

今年初めて『アニー』を観る方、そして過去に観たことのある方も、「あれって何だっけ?」「何て言っていたの?」と思ったら、ひとまず当ページをあたっていただければ幸いである。

【あらすじ】
(原作:ハロルド・グレイ『小さな孤児アニー』/ミュージカル版脚本:トーマス・ミーハン)

 
1933年12月。1929年のウォール街株価暴落に端を発した世界的大恐慌が色濃く残り、家や職を失う人々にあふれていたアメリカ合衆国。そんな中、ニューヨーク市立孤児院にはひとりの前向きな女の子がいた。その子の名はアニー。いつか両親が迎えに来てくれることを夢見る11歳の赤毛の少女だ。「いつまで待っても父さんと母さんは迎えに来ない。だったらこっちから探しに行こう!」
 
孤児院を脱走し、りんご売りのおじさんや犬のサンディ、さらには「フーバービル」の人たちと出会うアニー。しかし警官に補導され孤児院に連れ戻されてしまう。だが、そこに大富豪ウォーバックスの意を受けた秘書グレースがやって来た。彼女は言った。「クリスマス休暇に孤児を一人、招待したい」
 
グレースに選ばれたのはアニーだった。ウォーバックス邸で2週間、夢のような日々を過ごす。ウォーバックスはいつしかアニーに惹かれるようになり、彼女を養子にしたいと願う。しかしアニーの望みは「普通の子と同じように両親と暮らしたい。父さんと母さんを見つけ出したい」ということだった。
 
そこでウォーバックスは5万ドルの賞金を用意し、アニーの両親を公開捜索する。しかし両親になりすまそうとする悪人は、全米にごまんといた。さてどうなる、アニー!?

(補足説明! なぜ1933年が舞台になったのか?は【第4回】 参照。ブロードウェイ・ミュージカル『アニー』の誕生について、またトーマス・ミーハンが脚本を書き始めた1972年についても同回にて説明有)
 


さて、この「『アニー』劇中人名&用語辞典」は、<前編><後編>と二回に分けてお届けしたい。まず<前編>では、『アニー』第一幕を、場面ごとに追ってゆく。第一幕で描かれるのは、1933年12月11日~19日のニューヨークである(第二幕は1933年12月21日~25日のNY)。

<記号説明>
=物語に出演する人・犬
物語に出演する物
物語に名前のみ出てくる人
物語に名前のみ出てくる物
 


<ニューヨーク市立孤児院>

♪楽曲「Maybe」「It's the Hard Knock Life」「It's the Hard Knock Life(Reprise)」(作詞:マーティン・チャーニン、作曲:チャールズ・ストラウス)

● アニー  Annie

1922年10月28日生まれ。その年の大みそか、孤児院の前にロケット(ペンダント)の片割れと手紙とともに置かれた。いつか両親が迎えに来てくれることを前向きに信じ続ける11歳の赤毛の少女。しかしいつまでも両親が迎えに来ないことにしびれを切らし、脱走を決意するが……?!

1977年のブロードウェイ初演時はアニー役をアンドレア・マッカードル(Andrea Mcardle)が、1982年映画版ではアイリーン・クイン(Aileen Quinn)が演じたため、アニー(Annie)同様、頭文字Aの女優に運があるという説も出たらしい。

1978年の東宝製作による日本初演のアニー役は愛田まち(現:中間裕子)。1986年の日本テレビ製作版の初演は菅野志桜里(現:山尾志桜里)と猪木寛子のWキャストだった(【第4回】参照)。

なお、ミュージカルの舞台においてアニーは1922年10月28日生まれの11歳という設定だが、脚本を書いたトーマス・ミーハン自身が手掛けたノベライズ本(以下、ミーハン本)では1921年10月28日生まれの12歳となっている。これは、アニーが1933年の1月はじめから1年近くも孤児院を脱走していたから、という理由による(【第13回】 参照)。

2018『アニー』アニー役の新井夢乃、宮城弥榮(左から)

2018『アニー』アニー役の新井夢乃、宮城弥榮(左から)

● モリー  Molly(孤児)

最年少の6歳。ミュージカル『アニー』劇中で第一声を担当。いつもアニーに「両親からの手紙を読んで」とせがむ甘えん坊だが、皆の前でハニガンの真似をするなど大胆不敵な一面も。アニーを母のように慕っている(ミーハン本では、アニーが1年間孤児院を脱走し、その後すぐにウォーバックス邸に行ってしまうため、アニーロスで心を病む描写もある)。また孤児院の院長ハニガンお気に入りのサテンのクッションに……(以下省略)。両親は自殺している。

● ケイト  Kate(孤児)

モリーの次に幼い7歳。ネズミの死骸を手づかみにして孤児たちやハニガンに見せるなど、大胆ないたずらっ子。両親と兄2人は火事で死亡。

● テシー  Tessie(孤児)

感情派の10歳。「Oh my goodness」が口癖。旧演出では「どうしよう」と訳されていたが、2017年新演出(山田和也演出版)より「もうやだ」の訳に。父と姉は海洋事故死。母は病死。

● ペパー  Pepper(孤児)

喧嘩好きでやんちゃな12歳。「パンチを食らわせてやろうか!」と、ボクサーばりのポーズをとるが、意外と口先ばかり?! ウォーバックス邸でクリスマスを過ごすことになったアニーを「うらやましくない」と強がるが、ウォーバックス邸の豪華さにあんぐり。寝相が悪い。両親がギャング抗争に巻き込まれ死亡していることから、喧嘩早さは皆を守ろうとしている裏返しかも……?

● ジュライ  July(孤児)

孤児間の調整役としても気をまわす13歳。名前の由来は、7月(July)に孤児院の前に捨てられていたから。本好きで大人しいように見えるが、ペパーを喧嘩でのすなど、意外に強い一面も。両親はマラリアで死亡。妹は栄養失調で死亡。

● ダフィ  Duffy(孤児)

生まれが肉屋のためか(?)、孤児のなかで一番大柄の13歳。2017年新演出より「Fully Dressed Without a Smile」の歌い出しソロを担当し、旧演出の「のんびり屋」から「有名になりたい欲」のある子のイメージに。家族は全員強盗に殺された。

2018『アニー』アニー役&孤児役の面々(合格発表時)

2018『アニー』アニー役&孤児役の面々(合格発表時)

● ハニガン  Agatha Hannigan

ニューヨーク市立孤児院の院長。アニーたちに掃除をさせ、洋服を縫わせ、どろどろスープを食べさせる。旧演出まで「ミス・ハニガン」とよばれていた通り、独身である。子ども嫌いで、孤児たちを外に散歩に出すのは月に1度のみ。自身はアルコール中毒。1933年12月5日に禁酒法が解かれるまでは密売業者から酒を買っていた。普段から孤児たちに「嘘をついてはいけない」と教えている。

2018『アニー』ハニガン役の辺見えみり

2018『アニー』ハニガン役の辺見えみり

● バンドルズ  Bundles

孤児院に出入りする洗濯屋。クリスマスにハニガンから中華レストランに誘われる。アニーの脱走に(間接的に)加担する。

☆​ どろどろスープ

マッシュ(mush)という、トウモロコシの粉を水で煮たもの。やりくり上手のハニガンが、それをさらに水で薄めている。旧演出では「おかゆ」と訳されていたが、2017年新演出から「どろどろスープ」の訳になった(【第9回】参照)。

☆ ​クライスラー・ビルディング  Chrysler Building

孤児院の院長ハニガンから「クライスラー・ビルディングのてっぺんみたいに、ピッカピカになるまで」掃除をしろと命じられるアニーたち孤児(「It's the Hard Knock Life」では、モリーがその口真似をするシーンに注目!)。1930年に建立されたアール・デコ建築の優美な銀色のビルで、1931年にエンパイア・ステート・ビルディングが建つまで世界一の高さだった。「てっぺん」はステンレス製で、光が当たるとピッカピカに見えるのが特徴。

<アニーの脱走 レキシントン通り~セント・マークス・プレイス~59番ストリートブリッジ「フーバービル」>

「Tomorrow」「Hooverville(We'd Like to Thank You, Herbert Hoover)」

● リンゴ売り  the Apple Seller

2017年新演出ではほんの一瞬の登場だったが、『アニー』においてリンゴ売りは時代の象徴。世界大恐慌で職を失った人たちが路上でリンゴ売りになり、ミーハン本では、アニーもリンゴ売りをしていた(【第13回】 【第14回】参照)。

● サンディ Sandy

セント・マークス・プレイスで野犬捕獲人に追われているところを、アニーに助けられた野良犬。

サンディ(Sandy)という名前は、「砂っぽい」という意味。旧演出まではアニーが砂浜のポスターを見て名付けていた。2017年新演出からポスターがなくなったので、犬の色で思いついた設定なのだろう。

フーバービル(下記参照)でアニーとはぐれるが、ウォーバックス邸で再会する。劇中に説明はないが、はぐれたサンディを探し出したのは、老舗探偵事務所の「ピンカートン探偵社」という設定である。

日本では1986年から2017年まで、サンディを勤めてきたのはオールド・イングリッシュ・シープドッグだった。しかし、2018年からレトリバーの血を引くミックス犬に変更となる。ちなみに1930年代において、大型の野犬というのは実際にはまず考えられない(飢えた人たちに食べられる、毛皮をはがれる等)。

2018『アニー』に登場する新サンディ

2018『アニー』に登場する新サンディ

〇 フーバービル  Hooverville

世界大恐慌のきっかけは、1929年のウォール街株価暴落だが、それはフランクリン・ローズベルト(民主党)の一つ前のアメリカ合衆国大統領(共和党)ハーバート・フーバーの失政によるところが大きいとされる。それがもとで仕事も家も失った人々のバラック集落があちこちに建ち、野党である民主党が非難を込めて「フーバービル(Hooverville:フーバー村)」と呼んだ。

アニーとサンディが行きついたバラックは、59番ストリートブリッジふもとにある「フーバービル」。「フーバーブランケット(毛布の代わりに古新聞を使うこと)」、「フーバーフラッグ(何もないポケットを裏返しにすること)」という言葉も作られ、『アニー』本編の中にも、それを彷彿とさせるセリフがある(【第4回】参照)。

● フーバービルの住人たち  Men and Women of Hooverville

59番ストリートブリッジふもとの「フーバービル」には、炊き出しを担当するソフィらが暮らし、リンゴ売り、物乞い、盗みでなんとか生きている。「1929年の株価暴落に(自分の)責任はない」というフーバー前大統領の発言に怒っている。

旧演出まで、アニーはここで「1928年以来の楽観主義」と呼ばれていた。ハーバート・フーバーが大統領に就任したのが1929年と考えると、「なるほど」と納得できる(2017年新演出では「1928年以来の楽観主義」から「希望」に変更された)。

<脱走したアニーが孤児院に返される>

「Little girls」「Little Girls(Reprise) 」

〇​ ハニガンが部屋で聴くラジオドラマ

ハニガン愛聴の、オルガン演奏のテーマ曲で始まるラジオドラマ。これは1933年10月から放送され、当時流行した「ヘレン・トレント(The Romance of Helen Trent)」というソープオペラ(連続メロドラマ)だ。「35歳を超えた女が恋をあきらめることはない。35歳女と20歳男の恋は成り立つのか?!」という内容が、劇中ひそかに進行しているが、必ず邪魔が入り、その恋の進展はわからずじまいだ。

● 17管区ウォード警部補  Lt. Ward

孤児院を脱走したアニーを捕らえ、ハニガンの元に引き渡す。

● グレース・ファレル  Grace Farrell

大富豪オリバー・ウォーバックスの個人秘書。ウォーバックスとクリスマス休暇を過ごす孤児を探しに、ニューヨーク市立孤児院にやって来る。ウォーバックスに恋心を抱いており、メイドや執事、従僕たちには、その気持ちがバレバレである。

2018『アニー』グレース役の白羽ゆり

2018『アニー』グレース役の白羽ゆり

☆ ミシシッピ  Mississippi

アニーが「頭のいい子」の証明として「ミシシッピ(Mississippi)」のつづりを、グレースに対してアピールする。なぜ綴りをアピールしているかは【第13回】を参照。

☆ ​バーグドルフ  Bergdorf Goodman

グレースがアニーに「バーグドルフでコートを買ってあげましょう」と約束するのは、五番街の高級デパート。正式名称は「バーグドルフ・グッドマン」。2013年に日本でも公開されたドキュメンタリー映画『ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート』とは、ここのこと。

<ウォーバックス邸>

「I Think I'm Gonna Like It Here」

● オリバー・ウォーバックス  Oliver Warbucks

「世界一金持ちの独身男性」と雑誌に書かれているほどの大富豪。ニューヨークの富裕層が集まる5番街987番地に邸宅を構え、執事や秘書、従僕、メイドたちと暮らす。好物はローストビーフとヨークシャープディング。ハニガンやリリーは「百万長者(millionaire)」と言うが、グレースいわく「億万長者(billionaire)」である。

10歳になる前に両親が死んだことで、大金持ちになることを決意。23歳までに100万ドルを貯め、その10年後に1億ドルにした。やがて「ともに歩く人がいないとそれは貧乏と同じだ」と気づき、アニーを養子にしたいと考えるようになる。共和党員であり、はじめは民主党員の大統領ローズベルトと親しくはないが、劇中、徐々に関係が進展してゆく。

2018『アニー』ウォーバックス役の藤本隆宏

2018『アニー』ウォーバックス役の藤本隆宏

● 執事ドレーク  Drake

ウォーバックス邸のベテラン英国人執事。チーフとして、他の従僕を束ねる。アニーのジョークを真に受けてしまう真面目さもあり、かつ、アニーやウォーバックス、グレースのことが大好きな、チャーミングな顔も持つ。

● 料理長ピュー  Mrs. Pugh

ウォーバックス邸の料理長。6週間ぶりに帰宅するウォーバックスのため、好物を用意して帰宅を待つ。グレースの、ウォーバックスへの恋心を見抜き、さりげなく応援する女性。

● グリア  Mrs. Greer

女中頭。お風呂係も兼任している。

● セシル  Cecile

洋服係のフランス人メイド。

● アネット  Annette

寝室係のフランス人メイド。

★ ドン・バッジ選手  John Donald Budge

世界的なテニスプレイヤー。アニーが「テニスのラケット、持ったこともない」と言えば、グレースが彼をコーチにつけようと提案する。1982年の映画版『アニー』でも、日本語字幕には反映されていないが、後ろのほうでグレースが小さな声で「ドン・バッジを」とオーダーしているのが聞こえる。

〇 パリからの絵

ウォーバックスが出張から帰ってきた際に届いた絵。何も説明はないが、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」で、レプリカではなく本物という設定。ウォーバックスが独力でフランスの国家経済を助けたお礼に、ルーブル美術館が、値段がつけられないほどの価値を持つ「モナ・リザ」を手放したという(【第14回】参照)。

<ウォーバックス留守中にかかってきた電話相手>

★ ジョン・D・ロックフェラー  John Davison Rockefeller

スタンダード・オイル創業者、ロックフェラー財団を設立した事業家で、1933年時には世界一ともいえる大富豪であった。

★ マハトマ・ガンジー  Mohandas Karamchand Gandhi

インド独立の父。

★ ハーポ・マルクス  Harpo Marx

有名な喜劇俳優兄弟のマルクス・ブラザースの中で、ただひとり声を一切発さないキャラクター。にもかかわらずウォーバックス留守中に電話をかけてきて、グレースから「何もおっしゃっていませんでした」と報告されている。

<ウォーバックスのセリフおよび電話相手>

★ ベーブ・ルース "Babe" Ruth

初対面のアニーに「会いたいか」と尋ねる。野球の神様といわれたヒーロー的なプロ野球選手。

〇 ロキシー・シアター  The Roxy Theater

「映画に行ってみたい」とアニーが言ったことで向かうことにした、タイムズスクエア近くの映画館。

〇 サン・モリッツ・ホテルのカフェ  The Hotel St. Moritz/Rumpelmayer's

「ロキシー・シアターに行く前に、サン・モリッツ・ホテルのカフェで、アイスクリームソーダを頼むといい」と、ウォーバックスから言われたアニー。ホテル・サン・モリッツ(The Hotel St. Moritz)は1933年当時の名称。ニューヨーク5番街59丁目に位置するラグジュアリーホテル。セントラルパークの景色を望む59丁目側には、ランプルメイヤーズ(Rumpelmayer's)という、コーヒーとアイスクリームが名物の高級カフェがあった。アニーは子どもだったので、コーヒーではなくソーダをサジェスチョンしたのだろう。「N.Y.C.」(後述)の曲には、演出によってはアニーがアイスクリームソーダを飲む場面がある。

ところでこのホテルは1985年以降、あの、誰もが知っている実業家に買われている。2018年現在アメリカ合衆国大統領の、あのドナルド・トランプである。彼によって二度買収されているが(富豪に売って利益を得る不動産財テク)、2018年現在はトランプの手を離れ、「ザ・リッツ・カールトン ニューヨーク・セントラルパーク」という五つ星ホテルとなっている。

〇 セントラル・パーク  Central Park

サン・モリッツのカフェ(ランプルメイヤーズ)でアイスクリームソーダを食べたら、「馬車でセントラルパークを回るといい」とアニーに言うウォーバックス。ランプルメイヤーズの脇、そしてウォーバックス邸(【第14回】参照)の目の前がニューヨーカー達の憩いの公園、セントラルパークである。旧演出では、ウォーバックス邸の窓からセントラル・パークが見えていた。

★ バーナード・バルーク  Bernard Mannes Baruch

ウォーバックスが出張から帰ってきて早々に電話がかかってくる。ウォーバックスがローズベルト大統領と電話するシーン(「私も(バーナード・)バルークも、炊き出しの列に並んでいるわけじゃない」)にも、その名が出てくる。

バルークは伝説の相場師であり政治家で、ウィルソン→ハーディング→クーリッジ→フーバー→ローズベルト→トルーマンまで歴代6人の大統領のアドバイザーとして暗躍した。そのため“影の大統領”だったという言い方もある。

ちなみに筆者は、ウォーバックスのモデルはバーナード・バルークだと考えている。バルークには、全米一のウラン採掘業者グッゲンハイム財閥の代理人として働くウォール街の投機業者という顔もあり、グレースのセリフ内に「ウォーバックス様とアニーはどこに行くにも一緒。証券取引所にも」というセリフがある。その他の根拠については【第12回】で詳しく述べているので、ぜひご参照いただきたい。

☆​ ベントレー  Bentley

イギリスの高級車。ミーハン本では、ベントレーではなく「ロールス・ロイスになさいますか」となっている。これは1931年にロールス・ロイスがベントレーを買収したからだ。ただし現在はロールス・ロイスはBMW傘下、ベントレーはドイツのフォルクスワーゲン・グループ傘下になっているため、別会社である。現代の観客が混乱しないための翻訳だろう。

☆ デューセンバーグ  Duesenberg

アメリカ合衆国の高級車。1937年倒産。サディスティック・ミカ・バンドの代表曲「タイムマシンにお願い」の歌詞「デューセンバーグを夢見る、アハハン」によって、ある特定の世代にはつとに知られる。

<アニー、ウォーバックス、グレースの外出>

「N.Y.C.」「N.Y.C.(Reprise)」

〇 N.Y.C.

口汚いタクシードライバー、胸やけするホットドッグなど、ニューヨークの名物が歌われる「N.Y.C.」。ニュー・ヨーク・シティの頭文字だ。原詞に出て来る「mayor five foot two(5フィート2インチの市長)」とはラガーディア空港にその名を残す、フィオレオ・ラガーディア Fiorello Henry La Guardia のことだ(日本版訳にはこれまで一度も反映されていない)。

日本版演出では孤児たちやアンサンブル、そしてダンスキッズも登場し、大ナンバーを盛り上げる。

〇 エンパイヤ・ステート(・ビルディング)   Empire State Building

1931年建立。クライスラー・ビルディングを抜いて当時世界一の高さになった。建設はアル・スミス(後述)の主唱によるものであった。

〇 タイムズ・スクエア  Times Square

マンハッタンの42丁目7番街とブロードウェイが交差する周辺の劇場街。ただし1933年当時は大恐慌の名残から煌びやかさは減少、いかがわしく危険なエリアもあったようだ。

● 未来のスター  Star-To-Be

「N.Y.C.」の途中から、カバン1つを持って出てくる女性。1999年製作版ディズニーによるテレビ映画『アニー』(監督:ロブ・マーシャル)では、ブロードウェイ・オリジナル・アニー役のアンドレア・マッカードルが大人になってこの役で登場する。

★ ガーシュイン  George Gershwin
★ カウフマン  George Simon Kaufman

未来のスターが歌う「ここはガーシュインやカウフマンが愛した街」。

ガーシュインは、ポピュラー音楽・クラシック音楽の両面で活躍した作曲家のジョージ・ガーシュイン。「ラプソディ・イン・ブルー」などで知られる。

カウフマンは、原詞では「Kaufman and Hart」。風刺喜劇を手掛けたジョージ・シモン・カウフマン&モス・ハート(George Simon Kaufman&Moss Hart)のことである。カウフマン単独でも劇作家として活動していた。

☆​ ペントハウス  penthouse

未来のスターが歌う「あしたはペントハウス」。この場合、ゴージャスなビルの最上階部屋、という意味。

<孤児院への訪問者>

「Easy Street」

● ルースター  Daniel "Rooster" Hannigan

ハニガンの弟。模範囚で半年早く刑務所から釈放された。ルースターには「おんどり」という意味があるので、おんどりっぽい動きや声を出す。本名はダニエル・フランシス・ハニガン。「大事なのは金だけ」と亡き母に教育された。

1999年製作版ディズニーによるテレビ映画『アニー』(監督:ロブ・マーシャル)では、アラン・カミングが演じた。

2018『アニー』ルースター役の青柳塁斗

2018『アニー』ルースター役の青柳塁斗

● リリー・セントレジス  Lily St. Regis

ルースターのガールフレンド。「五つ星の超高級ホテル(セントレジス)と同じ名前」が売りの金髪女性。ハニガンには「ホテル女」「バカホテル」と呼ばれる。

1999年製作版ディズニーによるテレビ映画『アニー』(監督:ロブ・マーシャル)では、クリスティン・チェノウェスが演じた。

2018『アニー』リリー役の山本紗也加

2018『アニー』リリー役の山本紗也加

<ウォーバックス邸>

「You Won't Be an Orphan for Long」「Maybe(Reprise) 」

★ ローズベルト大統領(第一幕では名前のみ。第二幕に登場)  Franklin Delano Roosevelt

フランクリン・ローズベルト。日本版の劇中ではルーズベルトと呼ばれるが、Rooseveltの発音はローズベルト。民主党出身の第32代大統領。

劇中に関連する大統領名を簡単にいえば

★ 第30代大統領(1924年~1929年)カルバン・クーリッジ  John Calvin Coolidge, Jr.
政党:共和党
経済:アダム・スミス的自由主義(市場への政府介入なし)
劇中:ウォーバックス(共和党員)の個人的立ち位置はここ。だが、デトロイトやシカゴでたくさんの工場が閉鎖されているのを目の当たりにしたため、バーナード・バルークの友人であるローズベルト大統領による「政府介入」の必要性を考え始める。

★ 第31代大統領(1929年~1933年)ハーバート・フーバー  Herbert Clark Hoover
政党:共和党
経済:アダム・スミス的自由主義(市場への政府介入なし)
劇中:「フーバービル」でおなじみのフーバー。フーバービルの人たちに恨まれている。

● 第32代大統領(1933年~1945年)フランクリン・ローズベルト  Franklin Delano Roosevelt
政党:民主党
経済:ケインズ的(市場への政府介入あり)ニュー・ディール政策を実行
劇中:アニーに触発されてニュー・ディール政策を思いついたことになっているが、史実では就任当初より施行(【第11回】 参照)。

このように党派も経済理論も違うローズベルトとウォーバックスが、お互いに距離を縮めてゆくのを観るのも『アニー』の醍醐味だ(【第9回】参照)。

★ アル・スミス  Alfred Emanuel Smith, Jr.

民主党員。元ニューヨーク州知事。ローズベルト大統領をディナーに誘い、OKの返事をもらったウォーバックス(共和党員)が、グレースに「アル・スミスに電話して、民主党員(ローズベルト)が何を食べたいか聞いてくれ!」と叫ぶ。

大統領選挙でフーバーに負けた後は、エンパイア・ステート会社の社長となって、エンパイア・ステート・ビルディングを建立。それは1931年、クライスラー・ビルディングを抜いて当時世界一の高さになった(【第4回】 【第5回】参照)。

〇 ティファニー  Tiffany

アニーを養子にしたいウォーバックスが、アニーのボロボロのロケット(ペンダント)を見かねて発注した高級宝飾店。ただし、『ティファニーで朝食を』でおなじみ、世界的に有名な本店(ニューヨーク五番街と57丁目の角)は、1940年にできたもの。1933年当時は、五番街と37丁目の角にあった。劇中には、ティファニーブルーの箱に入ったロケットが出てくる。

☆​ ヘルズ・キッチン  Hell's Kitchen

ウォーバックスの出生地。旧演出では「地獄の台所」と訳されていた。クリントン、またはミッドタウン・ウエストの地域のこと。今でこそレストランも立ち並ぶオシャレな場所だが、1933年当時は「アメリカ大陸でもっとも危険な地域だった」という(【第14回】 参照)。

〇 レンブラント  Rembrandt Harmenszoon van Rijn

「レンブラントやデューゼンバーグを持っていても、心と心が通わなかったら、貧乏と同じ」とアニーに述べるウォーバックス(デューゼンバーグは前述)。ウォーバックス邸の壁にはダ・ヴィンチの「モナ・リザ」、レンブラントの「自画像」、ミレーの「落穂拾い」が掛かっている。世界の有名美術館から取り寄せたものだ。ミーハン本では、ウィリアム・ターナー、エル・グレコ、トマス・ゲインズバラ、ハンス・メムリンクの絵画も飾られている(【第14回】 参照)。

☆ ホワイトハウス(第一幕ではセリフのみ、第二幕で登場)  White House

アメリカ合衆国首都であるワシントンD.C.の中心部にあり、アメリカ合衆国大統領が居住し、執務を行う白亜の建物。大統領行政府の中心はホワイトハウス事務局なので、その役割も含めて「ホワイトハウス」と呼ぶケースもある。

「ウォーバックスの養子になるよりも、両親と暮らしたい」というアニーに、グレースとドレークが「ウォーバックス様ならホワイトハウスも国際連盟も意のまま(だから両親を探せる)」と言うが、普通、ひとりの孤児のために国家は動かない。

☆ 国際連盟  League of Nations

1920年に正式発足した国際機関(1946年4月に解散、国際連合に継承)。世界は恐慌の余波が残り、第二次世界大戦も目前なので、もちろんひとりの孤児のために国際連盟は動かない。

☆ FBI

FBI(Federal Bureau of Investigation=連邦捜査局)。ただしこの名称は1935年以降のものであり、1933年当時は創設以来の名称BoI(Bureau of Investigation=捜査局)と呼ばれていた。

ウォーバックスは優秀なFBI捜査官50人を、アニーの両親探しのために自費で雇う。

★ フーバー長官  John Edgar Hoover

ジョン・エドガー・フーバー長官。1924年から1972年まで捜査局のトップに君臨した。

ミーハン本では、ウォーバックスはフーバー長官に、アニーの両親を探すために「エリオット・ネスも連れてきてくれ」と所望しているが断られる。フーバーは「捜査局ですら捕まえられなかったギャングのアル・カポネを捕らえた財務省のネスに嫉妬していた」という説がある。それを頭に入れておくと、ウォーバックスが舞台で「うん」「ああ?!」と言っているだけの、フーバー長官との電話シーンに爆笑できるだろう(【第6回】参照)。

☆ ヒップ・ヒップ・フーレイ!  Hip hip hooray!

第一幕ラスト曲「You Won't Be An Orphan For Long」内で、執事ドレークが叫ぶセリフ。誰かを応援するとき、鼓舞するとき、また称賛や喝采をおくるために叫ぶ言葉。

「ヒップ(hip)」は、かけ声や呼びかけ、唱和(お尻、という意味ではない!)として使われている。これまでは「エイ・エイ・オー!」と翻訳されていたが、2017年新演出より「ヒップ・ヒップ・フーレイ!」となった。

ドレークの気持ちの高まり、その場の全員の結束・鼓舞、そしてアニーへの応援を込めて「やるぞ~!」「頑張ろう!」「アニー様万歳!」的な意味となる。

続く第二幕の用語は<後編>にて!

(前列左から)新井夢乃、宮城弥榮、(後列左から)山本紗也加、白羽ゆり、藤本隆宏、辺見えみり、青柳塁斗

(前列左から)新井夢乃、宮城弥榮、(後列左から)山本紗也加、白羽ゆり、藤本隆宏、辺見えみり、青柳塁斗


参考文献:
・トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)
・Thomas Meehan『Annie -A novel based on the beloved musical!-』(2013年、Puffin Books)
・CD『アニー オリジナル・ブロードウェイ・キャスト』ブックレット内 歌詞(2004年、ソニーミュージック)

 

文:ヨコウチ会長


 
☆ミュージカル『アニー』に関して、もっと知りたい方は、当連載をご参照ください↓☆
<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー

次回に続く


『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編> ~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第22回】

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【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』
【連載第22回】『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>

前回はこちら

丸美屋食品ミュージカル『アニー』が2018年4月21日より開幕する。観劇に際して、登場するキャラクターや用語を予習・復習しておきたいもの。そこでお届けするのが「『アニー』劇中人名&用語辞典」である。

物語の舞台は1933年、クリスマスシーズンのニューヨーク。<前編>  では第一幕(1933年12月11日~19日)に出てくる人名・用語を解説したが、今回の<後編>では第二幕(1933年12月21日~25日)を、場面ごとに追っていく。

<記号説明>
●=物語に出演する人・犬
〇=物語に出演する物
★=物語に名前のみ出てくる人
☆=物語に名前のみ出てくる物

<ラジオのスタジオ・孤児院>

♪楽曲「Maybe(Reprise II)」「(You're Never)Fully Dressed Without a Smile」「(You're Never)Fully Dressed Without a Smile (Children Reprise)」「Easy Street" (Reprise)」(作詞:マーティン・チャーニン、作曲:チャールズ・ストラウス)

●効果音係 Sound Effects Man

第二幕開始前に劇場の観客をラジオ番組の見学客に見立てて盛り上げるほか、ラジオ番組内の足音やドアの音の効果音を担当(【第10回 】参照)。

〇『スマイル・アワー』 The Oxydent Hour of Smiles

アニーとウォーバックスが出演した、オキシデント社(歯磨き粉会社)提供のラジオ番組。NBCレッド・ネットワーク(現在のNBCラジオ・ネットワーク)にてオンエアされている。全米ナンバーワンの人気を誇り、アメリカ合衆国民の約半数が聴いているといわれるため、アニーの両親または知り合いが聴く望みをかけて出演した。ウォーバックスは最初「番組のイメージが合わない」と出演を断られたが、怒ったウォーバックスがすぐにオキシデント社を買い取って出演したという説もある(【第14回】参照)。

●バート・ヒーリー Bert Healy

『スマイル・アワー』で、 カリスマ的な人気を誇るラジオ・パーソナリティー。この役、日本では2001年~2017年までずっと、俳優・矢部貴将が演じてきた。はたして2018年は……。

●ボイラン・シスターズ Boylan Sisters (Connie, Ronnie, Bonnie)

『スマイル・アワー』名物、コニー、ロニー、ボニーの3人組シンガー。バート・ヒーリーとともに番組テーマソングを歌う。「シスターズ」というわりには、本当の姉妹ではなく、「姉妹という設定」の3人組のようだ。ブロンドヘアの彼女たちがセクシーに伝えるオキシデント社のコピーは「あなたの歯に、ハリウッドの輝きを」。『アニー』脚本のトーマス・ミーハン自身が手掛けたノベライズ本(以下、ミーハン本)には、当時実在のハリウッド女優フランシス・ディー、フランシス・ファーマー、ケイ・フランシスがオキシデント社の歯磨き粉を愛用している(だから「ハリウッドの輝き」なのだ)、という設定が記されている。

●ジミー・ジョンソン Jimmy Johnson

『スマイル・アワー』に登場する、ラジオ界唯一の覆面アナウンサー(DJ)。

●プロデューサー Producer

『スマイル・アワー』の責任者。番組内ではキュー出し等を担当している。

●〇フレッド・マクラケンとワッキー Fred McCracken & Wacky

『スマイル・アワー』に登場する、腹話術人形術師フレッド・マクラケンと相棒の木製人形ワッキー。英語では、ワッキーのことは、フレッド・マクラケンの「dummy」と説明されている。ただし、マクラケンのダミー(替え玉)という意味ではなく、腹話術用の人形は一般的に「dummy」と呼ばれる。マクラケンとワッキーがお揃いの服を着せたりする洒落た演出が見られることもある。

☆5万ドル 50,000 dollars

『スマイル・アワー』に出演したウォーバックスは、「アニーの両親だと証明できた人に、5万ドルの(銀行の支払い保証付き)小切手をさしあげる」と告知した。ミーハン本によると、「現在(2013年)の価値で数百万ドル」(2018年現在において百万ドルは日本円にして1億円前後)とのこと。

<ホワイトハウス>

♪「Tomorrow(Cabinet Reprise)」「Tomorrow (Cabinet Reprise II)」

〇ローズベルト大統領が聴いているラジオ A news Commentary on the radio

ホワイトハウスのシーンでは、まず、CBS局ラジオのニュースが聴こえてくる。声の主はH.V.カルテンボーン。当時のアメリカ合衆国で一番有名なラジオのニュースキャスターである。彼がドイツなまりでまくしたてる。「ローズベルト大統領(【前回】 参照)は、選挙時の掲げた公約(ニュー・ディール政策)を成し遂げるために、学識経験者を集めて顧問団(brain trust)を組織した。しかし顧問団とローズベルト大統領は、おおげさな議論だけで何一つ実行に移していない」と。

ちなみに【前回】 解説したとおり、実際の史実ではローズベルトは大統領就任当時から施行している。また、同大統領は「おしゃれは笑顔から」と語り、ラジオ番組『スマイル・アワー』愛聴者であることをにおわせる。ローズベルト大統領とラジオは切っても切れない関係にある。というのも、彼はラジオで「炉辺談話(fireside chat)」という番組を持っていた。くつろいだ雰囲気で国民に語りかける政権談話を得意とした大統領として、ラジオという当時最大のマスメディアを利用していたのである。

☆ワシントン・ポスト The Washington Post

ホワイトハウス(【前回】 参照)があるワシントンD.C.で発行されている有力地方新聞。

〇「唯一恐れなければならないのは、恐れそのものだ」"The only thing we have to fear is fear itself."

元々は1933年3月のローズベルト大統領就任演説での言葉。ミーハン本では、アニーが孤児院を1年間脱走中しており、その間、脱走先の食堂のラジオから流れたこの言葉を、アニーも聴いている。

●海軍護衛官 A Marine guard

ウォーバックスとアニーが到着したことをローズベルト大統領に告げ、案内する。また、アニーとウォーバックス宛に電報を届ける。

〇「アメリカ人の本業はビジネスにあり」"The business of America is business."

ウォーバックスが「クーリッジ大統領(【前回】 参照)の言葉を借りれば」と言えば、周囲の閣僚が「アメリカ人の本業はビジネスにあり」と続けるほど有名な言葉(【第11回】 参照)。クーリッジは、ウォーバックスと同じ共和党であり、1924年から1929年まで合衆国の第30代の大統領をつとめた。この次に大統領に就任するのがやはり共和党のフーバー(フーバービルのフーバー)である(その次が民主党のローズベルト)。クーリッジの失政も少なからず世界大恐慌の原因を作っている(【第11回】 参照)。

★アル・カポネ Al Capone

ホワイトハウスの中で怒号が飛ぶ。「FBIはまだ、アル・カポネに手を焼いているのか!」 アメリカ合衆国では、1920~1933年に禁酒法が施行されていた。アル・カポネはその禁酒法の時代、密造酒の製造・販売、さらに売春や賭博など非合法の犯罪組織を飛躍的に拡大させたギャングのボスだった。かような悪を暗躍させる禁酒法の廃止を公約に掲げて第32代の大統領に当選し、就任後すぐに実行に移したのがローズベルト大統領である。

ただし、FBIの呼称は1933年にはまだない(【前回】参照)。さらにはアル・カポネは1931年3月、FBIではなくエリオット・ネス率いる財務省・酒類取締局によって逮捕されている(【第11回 】参照)。つまり1933年12月の時点では、アル・カポネの捜査・逮捕劇は終了しているのだ!

ちなみにミーハン本では、FBIが手を焼いているのは「アル・カポネ」ではない。本当にFBIに追われていたのは、社会の敵ナンバーワンの犯罪王「ジョン・ディリンジャー(John Herbert Dillinger Jr.)」となっている。いずれにせよ、FBIという呼称はないけれど……。

〇「ここはまだ、自由の国だよ」"It's still a free country, with free speech."

1933年はドイツでナチスのアドルフ・ヒトラーが首相に就任、憲法を事実上停止して敵対勢力を排除、ファシズム政権を樹立させた年でもある。アメリカ合衆国は「いつドイツと戦争になってもおかしくない」という警戒心に満ちていた(【第5回】 参照)。ローズベルト大統領はアニーに、「ここ(アメリカ合衆国)はまだ、自由に意見を言える国だよ」に続けて「ドイツのように権力者に物を申しても、逮捕されないよ」と言いたかったのだろう。

『アニー』の物語よりもさらに先の話になるが、ローズベルト大統領は1941年1月6日、演説において、"The Four Freedoms"(4つの自由)の理念を宣言した。Freedom of speech(言論の自由)・Freedom of worship(崇拝の自由)・Freedom from want(欲望からの自由)・Freedom from fear(恐怖からの自由)である。これもアニーに出会った影響なのか?

●ハロルド・イッキーズ Harold Ickes(※ホワイトハウスに登場する閣僚については【第5回】  【第11回】 参照)

内務長官。短気な性格。ローズベルト大統領から「歌え」と指名される。ホワイトハウス内で歌い出すこと、政治と関係ないアニーが会議に参加することに難色を示しつつも結局は歌い出し、最終的には失業者の雇用・公共事業拡大を提言する。

●コーデル・ハル Cordell Hull

国務長官。関心分野は外交のため、国内の失業問題を「長い目で見よう」と述べる。それよりもドイツから戦争を仕掛けられることを懸念している。しかしローズベルト大統領に「飢えている人にとっては、長い目も何もないんだ」とたしなめられ、「ヒトラーにも負けない国づくりをしよう」と、国内の士気を高める政策に賛同。

『アニー』の物語よりもさらに先の話になるが、ABCD包囲網(米英中蘭の対日貿易制限)により経済的苦境に立たされていた日本は、対米交渉において「ハル・ノート」と称される強硬な最終通告書を突きつけられ、それを拒否。これがきっかけで1941年12月の真珠湾攻撃(日米開戦)へと至った。その「ハル・ノート」こそ、ハル国務長官によってまとめられた文書であり、その一部はヘンリー・モーゲンソウ財務長官(後述)の私案を叩き台にしたものだった。

●ルイス・ハウ補佐官 Louis Howe

ローズベルト大統領の側近で特別経済顧問。ローズベルトの親友。

●ヘンリー・モーゲンソウ Henry Morgenthau, Jr.

財務長官。ダムの建設を提言し、「労働者に給料を払えば、税金に回る」と発言。『アニー』劇中では、ウォーバックスと仲が良いようだ。コーデル・ハル(前述)がまとめた「ハル・ノート」の叩き台を作った。

●フランシス・パーキンズ Frances Perkins

アメリカ合衆国初の女性閣僚。政権の労働長官となり、社会保障、失業保険、児童労働を規制する連邦法、連邦最低賃金の採用などニュー・ディール政策の基礎固めを担った。

●★大統領のアドバイザー

「大統領の良きアドバイザーになれる」とローズベルト大統領に言われるアニー。劇中にその名が出てくる実際のアドバイザーは、ブランダイス判事(後述)と、バーナード・バルーク(【前回 】【第12回】参照)。

☆ニュー・ディール政策 New Deal

ローズベルト大統領が行なった新規巻き直し政策。最初は失業者救済のための公共事業拡大で「救済」。次に経済を「回復」。その後は労働関係法などの社会保障制度、税制、銀行制度などの社会「改革」を行なった。しかし1939年に第二次世界大戦が勃発、1941年12月の真珠湾攻撃(日米開戦)によって戦時体制となり、全ての完遂はされなかった。

しつこいようだが、アニーによってニュー・ディール政策が誕生したわけではない。当連載でも【第5回】 から【前回】まで何度も述べているが、史実においてニュー・ディール政策は大統領選挙時からの公約であり、1933年12月にはとうに実行に移されていた。

ちなみに原作コミック『小さな孤児アニー』の作者ハロルド・グレイは、「政府の犬になって肥えるくらいなら、貧しくとも自立せよ」の精神を持ち、政府の介入=ニュー・ディール政策を良しとしなかった(【第7回】  参照)。ただし原作コミックから取った設定は「世界一貧しい少女」「世界一金持ちの男」「犬のサンディ」だけで、ミュージカルでのストーリーはトーマス・ミーハンの創作である(【第4回】 参照)。

<ウォーバックス邸>

♪「Something Was Missing」「Annie」「I Don't Need Anything But You」「Maybe (Reprise III) 」「New Deal for Christmas」「Tomorrow (Finale)」

☆ブロンクス The Bronx

アニーの両親探しの結果、ウォーバックスの秘書グレースが「マンハッタン島にこんなに嘘つきがいるなんて」と言う。すると執事ドレークが「ブロンクスから来た者もいましたよ」と返す。場所は以下の通り。

赤で囲ってあるのがマンハッタン島、赤い点がウォーバックス邸。東側にブロンクスが見える。

赤で囲ってあるのがマンハッタン島、赤い点がウォーバックス邸。東側にブロンクスが見える。

赤で囲ったブロンクスの範囲はかなり大きい。

赤で囲ったブロンクスの範囲はかなり大きい。

☆蒋介石夫人(宋美齢) Soong Mei-ling

「(養子縁組のパーティーに)誰を呼びたい? ベーブ・ルース? ロックフェラー? 蒋介石夫人?」 2017年新演出から加わったウォーバックスのセリフ。ベーブ・ルース、(ジョン・D・)ロックフェラーについては【前回】 参照。蒋介石夫人(宋美齢)は浙江財閥の創始者にして孫文を支援した大富豪・宋嘉樹の三女。長女・宋靄齢(孔祥熙夫人)、次女・宋慶齢(孫文夫人)と共に「宋家の三姉妹」として知られる。1908年(9歳)から大学を卒業する1917年までアメリカに留学していた。1927年、宋美齢と蒋介石の結婚はニューヨーク・タイムズの一面を飾り、『アニー』に名前が出てくる1933年の時点でニューヨークでは既に大変なセレブリティで、「Madame Chiang Kai-shek」または「Madame Chiang」と呼ばれていた。「ウォーバックスはなぜ蒋介石夫人をパーティーに呼びたがるのか」については、【第12回】  参照。

補足説明! アニーは「(養子縁組のパーティーに)誰を呼びたい? 」と問われる前に、「ウォーバックスさんは何だって持ってる。壁にかかったデューセンバーグ……ベーブ・ルース」と言っている。つまりアニーはデューセンバーグデューセンバーグ(【前回】 参照)を車だと知らないし、ベーブ・ルース(【前回】 参照)を人名だとわかっていない。それゆえウォーバックスは、1933年時点でヤンキースの花形野球選手である「ベーブ・ルース」を招待したいと思ったのだろう。

ちなみにミーハン本では、この「誰を呼びたい?」の後は「ジョン・D・ロックフェラー? クラーク・ゲーブル? ハーポ・マルクス? ベーブ・ルース?」となっている。【第14回】  でも説明したとおり、クラーク・ゲーブル(Clark Gable)もハーポ・マルクス(【前回】 参照)も有名な映画俳優。ミーハン本では、ウォーバックスは映画好き、という設定なのだ。

●ルイス・ブランダイス判事 Louis Dembitz Brandeis

1933年の時点で77歳の、合衆国最高裁判所判事であり、ローズベルト大統領の私的アドバイザーも務めていた。ニュー・ディールの主な立法を合憲と認め、法律家の立場から大統領の政策を支えた大物である。

アニーと養子縁組の手続きをしたいウォーバックスが、執事ドレークにブランダイス判事を招くよう命じる。そして執事ドレークに「ブランダイス判事がお見えです」と紹介され、「Annie」の曲で華々しく登場する。ブランダイス判事は言う。「養子縁組の手続きはとても簡単だ。ニューヨーク州の法律で……」 これほどの大物法律家に対して、大富豪ウォーバックスはアニーとの私的かつ「簡単」な養子縁組の手続きを依頼したのである(【第12回】 参照)。

〇「ニュージャージーの小さな農場(養豚場)を覚えているかい?」"Remember the little pig farm out in New Jersey?"

アニーの両親(?)と思われる人物が、ウォーバックス邸にやって来る。「アニーの両親だと証明できた人に、5万ドルの(銀行の支払い保証付き)小切手をさしあげる」ことは知らない風情だ。ただ、貧乏であるよりもお金があったほうがアニーにいい暮らしをさせられる、と主張する父親が、母親に向かっ言うセリフが「ニュージャージーの小さな農場(養豚場)を覚えているかい?」。

両親が見つかり、夢が叶って嬉しいはずのアニーだが、独りになって歌うのは、「Maybe (Reprise Ⅲ) 」。ここは【第7回】で紹介したCD『アニー オリジナル・ブロードウェイ・キャスト』のボーナストラック内「バッカーズ・オーディション」音源によると、もともと「I've Never Been So Happy」という浮かれた曲だった。しかしアニーは、これから田舎で厳しい生活が待っていることは明らかだ。貧しさは5万ドルをもらえば解決されるとはいえ、せっかく心を通わせたウォーバックス邸の人たちと離れ離れになってしまう(【第8回 】参照)。その複雑な気持ちに気づくきっかけになるセリフだ。

〇「ゲーム・オーバー」"The jig is up."

アニーの両親(ニセ者)に向けられるセリフ。旧演出では「全て終わり」「全ておしまい」と翻訳されていた箇所だ。「策略はもうおしまい、もうダメだ」という意味の言葉で、ウォーバックスやローズベルト大統領側が使うと「あなた達のしたことは、もうバレていますよ」という意味にもなる。"The game is up(upはoverと同じ意味)"とも言い換えができるので、「ゲーム・オーバー」の訳がドンピシャである。また、ここをここを「ゲーム・オーバー」と訳すことで、第二幕のオーバーチュアの出だしが、壮大なゲーム音楽っぽいアレンジになっている、と筆者は感じた。

〇「ハニガンとは二度と会うことはないぞ」"Miss Hannigan is gone for good."

旧演出では「ミス・ハニガンは永久に戻ってこないぞ」と翻訳されていた箇所。永遠に(for good)いなくなる、という意味だが、2017年新演出ではハニガンたちの服装が天使のようだった。これは「死」なのか、「クリスマス劇(ページェント)」における天使なのか? ちなみにミーハン本(英語)では「Miss Hannigan is gone for good - to jail(刑務所へ)」となっている。ただしそれは事実なのか、本当は死んでいるのにウソをついているのかは不明。

〇「ノーモア・どろどろ!」"No more mush!"

トウモロコシの粉を水で煮た「どろどろスープ(mush)」は、孤児院で出されているマズい食事だ。ミーハン本によると、孤児たちにとっては、孤児院をおさらばできることよりも、マッシュとお別れできることが、「いちばんすばらしいニュース」と記されているほどで、『アニー』終盤の有名なセリフである(【第13回 】参照)。

ちなみに旧演出に「ノーモア・どろどろ!(No more mush!)」のセリフはなく、ウォーバックスが秘書グレースに「結婚してくれないか」とプロポーズするシーンとなっていた。2017年の新演出では、ウォーバックスからのハッキリしたプロポーズはなかったが、心を通わせる2人をニヤニヤと見守るアニーの表情が印象的だった。


さて、第二幕のラストは、「New Deal For Christmas」。「光と愛のクリスマス」と歌われているこの曲は、「New Deal」という言葉どおり、本来はローズベルト政権の様相を歌った曲である(【第5回】 参照)。2017年の新演出から、貧民バラック街・フーバービルの人たちがアニーを評する言葉は「1928年以来の楽観主義」(【第4回】参照)にかわり、「希望」と訳された(【第12回】参照)。これによって「今こそ取り戻す もう一度 希望を」「希望と愛のクリスマス」という歌詞が生きる。希望はニュー・ディール政策だけではない。「アニーを取り戻した我々が、もっと希望を持って生きられるようになった」という意味も込められたように、筆者は感じるのだ。


参考文献:・リアノー・フライシャー著 山本やよい訳『アニー』(1982年、早川書房)
・トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)
・Thomas Meehan『Annie -A novel based on the beloved musical!-』(2013年、Puffin Books)
・CD『アニー オリジナル・ブロードウェイ・キャスト』ブックレット内 歌詞およびライナーノーツ(2004年、ソニーミュージック)


文:ヨコウチ会長


 
☆ミュージカル『アニー』に関して、もっと知りたい方は、当連載をご参照ください↓☆
<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー

次回に続く

パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー ~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第23回】

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<特番情報>
ズムサタプレゼンツ!きっと誰かに話したくなる意外な“へぇ~”満載春のアニー祭り
■日本テレビ 4月14日(土)10:30
■テレビ新潟 4月28日(土) 10:30
■福岡放送 5月3日(木) 10:25
■讀賣テレビ 5月4日(金) 9:30
■中京テレビ 6月9日(土) 10:30
□CS日テレプラス 4月27日(金)14:30、4月28日(土)6:00、5月2日(水)6:30、5月2日(水)19:00
『アニー』チケットはこちら
 

【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』【連載第23回】
パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー

前回はこちら

1977年4月21日にブロードウェイで開幕したミュージカル『アニー』。日本では1978年に東宝製作で初演。1986年に現在の日本テレビ主催・製作が始まり、2018年には33年目を迎える。日本ほど『アニー』を上演している国はない(【第4回】  参照)。2017年からは、翻訳台本・編曲・振付・舞台美術・衣裳などを一新。ミュージカルからストレート・プレイまで幅広く演出する山田和也を演出に迎え、あざやかな新生『アニー』が始動。完売回が相次ぎ、当日券は長蛇の列となった。

今回、創り手の総指揮者である山田が、『アニー』の魅力を語ってくれた。さらにパワーアップすることが約束された2018年『アニー』。その開幕は、4月21日(土曜日)だ!

<ミュージカル『アニー』あらすじ>
 1933年12月。1929年からの世界的大恐慌が色濃く残り、家や職を失う人々にあふれていたアメリカ合衆国。ニューヨークの孤児院には前向きな11歳の少女アニーがいた。孤児院を脱走し、犬のサンディ、さらには「フーバービル」の人たちと出会うが、警官に補導され孤児院に連れ戻される。そこに大富豪ウォーバックスの秘書グレースがやって来た。アニーはウォーバックス邸でクリスマス休暇を過ごす。ウォーバックスはアニーにひかれ、養子にしたいと願う。しかしアニーは「普通の子と同じように両親と暮らしたい。父さんと母さんを見つけ出したい」と望んだ。ウォーバックスは5万ドルの賞金を出し、アニーの両親を公開捜索。しかし両親になりすまそうとする悪人は、全米にごまんといた。どうするどうなる、アニー!?
(第一幕:70分 第二幕:60分<予定>)
 


■『アニー』には、「良い作品」に不可欠なものが詰まっている

--山田さんの演出で上演時間が20分短縮。『アニー』の魅力が、ギュッと凝縮しました。ご自身の、お気に入りポイントはどこですか?

自分としては、ドラマの展開のテンポが良かったこと。言葉遣いのよそよそしさを減らせたこと。スピーディーで見栄えの良い場面転換が実現できたこと。物語が論理的に進行し、情緒的になっていないこと。登場人物が一面的なキャラクターになっていないこと。

スタッフワークでは、照明(高見和義さん)がゴージャスだったこと。衣裳(朝月真次郎さん)の質感が高かったこと。(新国立劇場 中劇場の)舞台の高さと奥行きを効果的に使えたこと(美術:二村周作さん)。音楽の仕上がりが、サウンド・デザインやオーケストラの演奏も含めてスウィンギーだったこと(音楽監督:佐橋俊彦さん、音響:山本浩一さん)……等が気に入っている点です。

理由は、それらはすべて「良い作品」に不可欠なことだからです。

--その評判や手応え、観客の反応はいかがでしたか?

手応えは、自分としてはありました。お客様の反応は、私が客席にいた回のことしか分かりませんが、それほど悪く無いように感じました。

ただ私は、「評判」は気にしないことにしています。

ご覧になった方全員の感想を伺うことができるなら別ですが、そうでない以上は、一部の方の感想を気にしても意味がないように思われますので。

その代わり、公演関係者の意見には注意深く耳を傾けます。プロデューサーさんであったり、デザイナーさんであったり、助手の方々であったり、現場のスタッフさんであったり……。それらの方々は、プロとして責任のある発言をしてくださるので、とても参考になります。その意見に従うか、従わないかは、また別の話ですが。


■2018年『アニー』始動!今年のアニー&サンディ

--3月から本格的に、2018年『アニー』の稽古が始まりました。今年のアニー(新井夢乃さん、宮城弥榮さん)の印象はいかがですか?

今年のアニーは……A型アニー(几帳面)とO型アニー(マイペース)ですね。それも、とてもわかりやすい。

どちらがA型でどちらがO型かは……ご想像にお任せします。

--日本版『アニー』において、アニーの相棒である野良犬サンディは、1986年から2017年までの33年間、オールド・イングリッシュ・シープドッグが勤めました。2018年からは、レトリバーの血を引くミックス犬に犬種が変わります 。新しいサンディについてもお聞かせください。

新しいサンディ“バブ”はおとなしくて、そして人の言うことをとてもよく聞く賢い子ですね。今までのサンディ以上に物語の中に溶け込んでくれているので、とても自然に見られますし、アニーとのバランスも良いようです。今まで以上に細かく仕事をしてもらっています。

山田和也

山田和也

■2018年ニュー・キャストについて

--新しい大人キャストの辺見えみりさん(孤児院の院長ハニガン役)、白羽ゆりさん(大富豪ウォーバックスの秘書グレース役)、伊藤俊彦さん(ローズベルト大統領役)についてもご紹介ください。(※キャスト表では「ルーズベルト大統領」ですが、当連載では「ローズベルト大統領」と表記しています→【第4回】参照)

お三方とも、ご一緒するのは今回が初めてです。

辺見えみりさんは、一般的には毒舌キャラと思われているようですが、稽古場での辺見さんは、もちろんそうではありません。とてもまじめで真摯な俳優さんです。(母親の辺見マリさんが2006年ハニガン役を演じており)『アニー』のことを良くご存じなので、演出家が説明に多くの時間を費やす必要もありません。演出家の指示がなくてもハニガンの芝居を膨らませてくださいます。何よりも芝居のリズムと間が素敵です。毒舌も「役」としては大いに生きていますし。

白羽ゆりさんは、今まで拝見していた舞台でのイメージとは全く違う方だったので、ちょっと驚いています。宝塚のご出身ですから、舞台上のことも舞台裏のこともとてもよくわかっていらっしゃる。そう言う部分ではとても頼りになります。が、それ以外のことになると、思いの外「ほんわか」としていらして……。癒されます。

伊藤俊彦さんは、作品に取り組む熱い姿と、気さくで気取らないカジュアルさが絶妙なバランスです。それが稽古場の空気をとても良くしているように感じます。なんだか部活で芝居をやっているような楽しさを思い出させてもくださる方です。

--アンサンブルには、続投組の鹿志村篤臣さん(18年目)、矢部貴将さん(18年目)、谷本充弘さん(3年目)、森 雄基さん(2年目)、坂口杏奈さん(2年目)、神谷玲花さん(2010年タップキッズ、アンサンブルとしては2年目)と、新しい方(伊藤広祥さん、大竹 尚さん、岩﨑ルリ子さん、川井美奈子さん)が入り混じります。配役はどうなりますか?

旧メンバーの配役は昨年と変わりません。新しく参加してくださる皆さんを、今年は出演されない方のところにそのままはめ込んでいます。2018年に向けてのオーディションの時から、そのつもりで選考しています。

--今年の孤児たち、ダンスキッズの印象はいかがですか?

孤児たちの第一印象は、去年の孤児たちと比べるとおとなしい、と言うか、控えめだなあ、と、思っていたんです、……最初は。大間違いでした(笑)。

ダンスキッズは、今年は敢えて小柄な子たちを選んでいるのですが、見た目とは反対にとてもダイナミックな動きを見せてくれているので、開幕がとても楽しみです。


■さらにパワーアップ! 2018年の『アニー』

--山田さんのブログ の「『アニー』2018通信」 によると、“今年の『アニー』は、「もっと分かり易く、もっと楽しく」したい”、“手直しをしようと思っている「幾つかの箇所」がある ”とのことですが……。

どんな作品でもそうなのですが、開幕の時点では「やれるだけのことはやった」と感じていても、月日が経つといろいろと粗が見えてくるものなのです。

2年目の今年は、先ずその粗を解消しようと考えています。作品の完成度を高める、と言うことですね。「あそこはもっと分かり易くできたんじゃないか」と言う部分を「しっかりと分かり易くしよう」と思います。「より分かり易く」なれば、それがそのまま「より面白くなる」ことになりますから。

--「分かり易く」を放棄しないことが、エンターテインメントのプロならではの山田さんだと感じます。「分かり易く」伝えるには、技術もハートも、根気強い稽古も必要です。

一番手を入れたいと感じているのは、第一幕のビッグ・ナンバー「N.Y.C.」を彩る、ダンスキッズの部分です。どう変わるのかは劇場でご覧いただきたいのですが、その部分に関しては、(振付・ステージングの)広崎うらんさんと何度も意見交換をしました。そして(音楽監督の)佐橋俊彦さんのお知恵もお借りしています。

--「より分かり易く」「より面白く」なることで、さらにパワーアップしますね。

ミュージカル未体験の方には、大人の方にもお子さんにも、特にお勧めです。

--1933年のニューヨークを舞台にした『アニー』には、歴史劇としての要素や、現代に通じる風刺もふんだんに織り込まれています。随所に挟み込まれるコメディ・シーンも、山田さんの演出でいっそう際立ちました。

『アニー』は子どもを主人公にした、大人のためのミュージカルです。

大人の方にこそ観ていただきたいですし、お子さんがいらっしゃる方は、一緒に観ていただきたいと思います。

『アニー』2018合格発表にて【前列左から】新井夢乃、宮城弥榮 【後列左から】佐橋俊彦(音楽監督)、山田和也(演出)、広崎うらん(振付・ステージング)

『アニー』2018合格発表にて【前列左から】新井夢乃、宮城弥榮 【後列左から】佐橋俊彦(音楽監督)、山田和也(演出)、広崎うらん(振付・ステージング)

■アニーになりたい歴31年の筆者より質問! どうしたらアニーになれますか?

--アニー選考の基準は、「他人の真似をしない」「スウィングのリズムが刻める」等がありつつも、最終的には「アニーっぽさ」とのことですが、その「アニーっぽさ」とは、どうしたら身につくものなのでしょう?

具体的には、『アニー』のようなタイプの楽曲を歌うレッスンを積むことと、そういうタイプの音楽を生かしたダンスのレッスンを積むことが必要でしょう。その上で、アニーという子がどんな子なのかをよく考えて、アニーだったらこんな時どう感じるだろうか、どう反応するだろうか、どう行動するだろうか……。そのことを一生懸命考えてみることです。

※アニー役・孤児役オーディション詳細は、毎年9月頃に日本テレビ『アニー』HP で告知。審査は「10月28日(アニー誕生日)現在において6才から15才まで」の女の子が対象。(参照記事:ミュージカル『アニー』2018オーディション合格発表ミュージカル『アニー』2017オーディション合格発表
 
[やまだ かずや] 日本大学藝術学部演劇学科演出コース在学中に、三谷幸喜に誘われ東京サンシャインボーイズの旗揚げに参加。大学卒業後の1984年、東宝演劇部に所属。1995年、パルコ・プロデュース『君となら』(作:三谷幸喜)で商業演出家デビュー。『王様と私』『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『ウェディング・シンガー』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』といったミュージカルだけでなく、翻訳劇、現代日本の劇作家による話題作など、大劇場から小劇場まで守備範囲は広い。2002年、『チャーリー・ガール』『ジキル&ハイド』『ミー&マイガール』の演出に対して第28回菊田一夫演劇賞を、2009年、『シラノ』『ラ・カージュ・オ・フォール』の演出に対して第12回千田是也賞を受賞。山田和也ブログ「SHOW GOES ON !!」http://showgoeson.cocolog-nifty.com/
 

構成:ヨコウチ会長

 
☆ミュージカル『アニー』に関して、もっと知りたい方は、当連載をご参照ください↓☆
<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー

次回に続く

2年目の山田演出は「より分かり易く」「より面白く」! ミュージカル『アニー』2018ゲネプロレポート ~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第24回】

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【THE MUSICAL LOVERS】
Season 2 ミュージカル『アニー』【第24回】
2年目の山田演出は「より分かり易く」「より面白く」!
~ミュージカル『アニー』2018ゲネプロレポート

前回はこちら

2018年の丸美屋食品ミュージカル『アニー』が4月21日(土)に開幕する。本作は41年前の1977年4月21日、ブロードウェイのアルヴィン・シアター(現ニール・サイモン・シアター)でオープンし、同年のトニー賞作品賞をはじめ7部門を受賞した。日本テレビ主催によるミュージカル『アニー』は1986年にスタートし、2018年に33年目を迎える。これまでのべ172万人もの観客に感動を与えてきた、国民的ミュージカルだ。

2017年からは山田和也を演出に迎え、翻訳台本・振付・舞台美術・衣裳なども一新した、新演出版『アニー』が誕生した。山田ほか、クリエイティブ・スタッフ(音楽監督:佐橋俊彦、振付・ステージング:広崎うらん、美術:二村周作、照明:高見和義、音響:山本浩一、衣裳:朝月真次郎、指揮:福田光太郎)も2017年より続投。

SPICEのインタビュー に対し、2018年の『アニー』は「より分かり易く」「より面白く」なる、と語った山田。そのゲネプロ(最終通し稽古)と囲み会見が、初日公演の前日、新国立劇場でおこなわれた。

メディア向けに公開されたのは、チーム・モップの『アニー』(第一幕のみ)。世界大恐慌直後の1933年、真冬のニューヨーク。誰もが希望を失う中、本当の両親が迎えに来る「明日」を信じて生きている孤児・アニーを宮城弥榮(みやぎやえ)が演じた。その舞台を、アニーになりたい歴31年、【THE MUSICAL LOVERS】を連載中の筆者がレポートする(注意:ネタバレNGの方はご遠慮ください)

<ミュージカル『アニー』あらすじ>
 1933年12月。1929年からの世界的大恐慌が色濃く残り、家や職を失う人々にあふれていたアメリカ合衆国。ニューヨークの孤児院には前向きな11歳の少女アニーがいた。孤児院を脱走し、犬のサンディ、さらには「フーバービル」の人たちと出会うが、警官に補導され孤児院に連れ戻される。そこに大富豪ウォーバックスの秘書グレースがやって来た。アニーはウォーバックス邸でクリスマス休暇を過ごす。ウォーバックスはアニーにひかれ、養子にしたいと願う。しかしアニーは「普通の子と同じように両親と暮らしたい。父さんと母さんを見つけ出したい」と望んだ。ウォーバックスは5万ドルの賞金を出し、アニーの両親を公開捜索。しかし両親になりすまそうとする悪人は、全米にごまんといた。どうするどうなる、アニー!?
(第一幕:70分 休憩:20分 第二幕:60分<予定>)


■新しいサンディの挑戦

日本テレビ主催『アニー』において、1986年から2017年まで、野良犬サンディを勤めてきたのはオールド・イングリッシュ・シープドッグだった。このたび、33年目にして犬種が変更、レトリバーの血を引くミックス犬となったことは【第19回】で報じたとおりだ。

『アニー』といえば、「Tomorrow」という人は多いだろう。この曲は第一幕、孤児院を脱走したアニーが、野犬狩りを逃れたサンディと出会って歌うナンバーだ。サンディのドッグトレーナーは、映画『南極物語』『ハチ公物語』『犬と私の10の約束』などで知られる宮 忠臣。演出の山田和也いわく「サンディには、今まで以上に細かく仕事をしてもらっている」とのことだった(【第23回】参照)。

サンディには、「アニーの飼い犬」だという証拠を見せる場面や、貧民街フーバービルでごはんをもらう場面など、高度な演技力が要求される。

アニー(宮城弥榮)がサンディを「自分の犬」だと証明する演技も素晴らしい。「おいで、サンディ」と呼ぶ時は、「本当に来てくれるだろうか?」という不安と緊張が伝わる声。だからこそ、サンディが来てくれたときの笑顔が輝く!

その後、フーバービルに向かったアニーとサンディ。「絶対に両親を見つけるもん!」と意気込むアニー。するとサンディが「うん」と言うかのように、うなづいた! そんな新しいサンディの達者な演技の数々をお楽しみに!!

■楽しいウォーバックス邸。大富豪と秘書の関係は……?

(左から)グレース:白羽ゆり、アニー:宮城弥榮、ウォーバックス:藤本隆宏

(左から)グレース:白羽ゆり、アニー:宮城弥榮、ウォーバックス:藤本隆宏

孤児院を脱走したアニーだが、17管区ウォード警部補(矢部貴将/『アニー』出演18年目)に連れ戻される。しかしそこでアニーは、大富豪ウォーバックスの秘書グレースに選ばれ、ウォーバックス邸でクリスマス休暇を過ごすことになった。

ウォーバックスを演じるのは、2017年公演で歴代最年少の、頭髪のある精悍な姿が新鮮だった藤本隆宏が、今年も頭髪を堂々たたえて続投。アニーと出会い考え方が変わってゆくまで、人の心の機微などにはとんと無頓着だ。例えば6週間ぶりに出張から家に帰ったシーン。料理人ピューがせっかく用意してくれた好物を「要らない」と言う(劇中には登場しないが、ウォーバックスの好物はローストビーフとヨークシャープディングである)。せっかくピューが心をこめて用意したのに! だが、やられっぱなし(?)ではない、たくましいピューである。そこで彼女の取った可笑しい行動とは?……ぜひ、生の舞台でご注目あれ。

ウォーバックスは当初、アニーが男の子ではないこと(ウォーバックスは『オリヴァー・ツイスト』の影響で、孤児=男だと思っているようだ)、仕事をジャマすることに怒っている。しかし、盟友バーナード・バルークからの電話をアニーが地団駄でやめさせると、「ブハハハハ!」と大笑い。アニーをすっかり気に入ってしまった。

宮城演じるアニーは、「大丈夫!」と言いつつも、ウォーバックスがかまってくれないと大げさにシュンとしてアピールする。そんな茶目っ気も、ウォーバックスの心を溶かしたのだろう。

しかしウォーバックスが無骨な頃から、彼を想う人物がいる。秘書グレースだ。演じるのは、元宝塚娘役トップを務めた白羽ゆり。【製作発表】では、「まっすぐで真面目なグレースが、アニーに出会って母性や恋やお茶目さを出してゆくことが楽しみ」という白羽に、藤本も「ウォーバックスはグレースがいないと何もできない。頼りにしている」と語った。

白羽は物腰やわらか、立ち居振る舞いは指先まで美しく、とても品がある。しかしウォーバックスに「映画」という言葉を伝えるジェスチャーシーンでは、『キングコング』のモノマネや死体の演技などを全力で披露。そのギャップがキュート! すばらしきコメディエンヌぶりを発揮した。

グレースはウォーバックス邸のスタッフたちに信頼され、愛されている。グレースが連れてきたアニーのかわいらしさに魅了されるウォーバックス邸スタッフたち。ベテラン英国人執事ドレーク(鹿志村篤臣/『アニー』出演18年目)をはじめ、伊藤広祥(初)、大竹 尚(初)、谷本充弘(3年目)、森 雄基(2年目)といった従僕たち。女中頭でお風呂係のグリア(川井美奈子/初)、料理人のピュー(坂口杏奈/2年目)、洋服係のセシル(岩﨑ルリ子/初)、寝室係のアネット(神谷玲花/2010年タップキッズ、アンサンブルとしては2年目)。彼らがアニーを歓迎する曲「I Think I'm Gonna Like It Here」は、弾む明るさに満ちあふれ、この場面ごと好きになること請け合いだ。(アンサンブルの活躍については、後日、当連載の別レポートにて紹介予定)

ウォーバックスはアニーと過ごすことで、だんだんと人間味を増してゆく。いつしかアニーを養子にしたいと思うようになったウォーバックスは、アニーのためにティファニーでロケット(ペンダント)を特注した。それを手渡すことを想像するだけで「アハー、クソー!」と頭を抱える。ビジネスではいつだって自信満々なのに、一人の少女の前では緊張してしまう。それは、本当に大切な人を見つけつつあるウォーバックスの心の変化だ。

だが、アニーに「パパとママは自分を迎えに来るの!」と言われてしまったウォーバックス。悲しみを隠し、FBIのフーバー長官に電話する勢いのよさ。ウォーバックス邸スタッフのアニーへの協力。はしゃぐアニーの傍らで寂しそうなウォーバックスに向かう、グレースの視線。皆が本当にほしいものは、心から望んでいることは、手に入るのだろうか?

さて、第一幕の時点では、共和党員ウォーバックスと民主党員ローズベルト大統領(伊藤俊彦)は、まだ仲良しとは言えない(というか、ローズベルト大統領とは電話しかしていない)。このレポートは第一幕のみとなっているが、この2人の関係は徐々に変化してゆく。アニーを通して築かれる、党派を超えた友情、繊細な心の動きを最後までご覧いただきたい。

■母娘2代でハニガン、辺見えみり

(左から)リリー:山本紗也加、ハニガン:辺見えみり、ルースター:青柳塁斗

(左から)リリー:山本紗也加、ハニガン:辺見えみり、ルースター:青柳塁斗

アニーたちに掃除をさせ、洋服を縫わせ、どろどろスープを食べさせる孤児院の院長ハニガンを演じるのは、辺見えみり。2006年には母・辺見マリも同役を演じている。12年の年月を経て親子が同役を演じる快挙である。

辺見のハニガンは迫力いっぱいでありながら、セリフひとつひとつを立たせている。だからセリフの持つギャグ・テイストも、漏らさず客席に伝えている。結果、客席が弾み、コメディとしてのテイストが濃厚になった。

アニーの親が11年間迎えに来ないことに「渋滞にでもつかまっているのかね」とイヤミをかます。孤児たちに、今日はぬるいどろどろスープではない、と期待させ、「さめたどろどろスープ~!」と子どもっぽくおどけ、孤児たちをガッカリさせる。孤児にゲロを吐かれたサテンのクッションをほっぺたに当てる。ラジオメロドラマ「ヘレン・トレント」の時間になると「わーい」とばかりにラジオに駆け寄る。「私に男をちょうだい!」と叫ぶ。「お遊戯室にホットココアとジンジャークッキーがあるわよ~」と、いい人ぶる。クリスマス休暇を過ごす孤児を探しに来たグレースに「大人の女性はどうかしら」と真顔で答える。辺見のハニガンは、今までにあったセリフの数々を、全部「笑い」にしてしまうホームランっぷりなのだ。

しかし辺見の一番の魅力は「歌」だ。ソロの「Little Girls」はもちろん、ハニガンの弟ルースター(青柳塁斗/2017年より続投)と、その恋人リリー(山本紗也加/2017年より続投)、そしてハニガンが歌う「Easy Street」という曲で、ハモリも絶品であることを証明した。

青柳演じるルースターの「(リリーは)キャワユイだろう~?!」という軽薄さ、おんどりモノマネからのバク宙、ハニガンのひざにまとわりつく姿は、昨年より一層笑わせる。「薄汚い孤児が(億万長者ウォーバックスに取り入って)ズルイ!」と叫ぶ、山本のリリー。彼女は「Easy Street」で、その美脚を曲のポイントポイントで組み直し、ラストのキメポーズでも足を後ろにぴょーんと曲げて魅了する。

この、悪いヤツらご一行様……というより、憎めないおバカさんたちが、この先の物語を引っ張ってゆく。

■大人しくなんかいられない! 2018年の孤児たち

「ママー!ママー!」 ミュージカル『アニー』の第一声は、モリー(島田沙季)のこのセリフだ。ここは孤児院なので、アニー以外は皆、親がいない。アニーが歌う「Maybe」が始まると、寝ていた孤児たちが起き上がる。アニーが空想する家族像に、笑顔になる孤児たち。筆者の涙腺は開始10分で決壊だ。

ひとりだけ「おやすみ」を言わない意地っ張りのペパー(武藤光璃)、アニーが孤児院を脱走しようとすると真っ先に起きる臆病なテシー(林 歩美)、ハニガンの笛の音にぐっと背筋を伸ばすケイト(込山翔愛)、「大好きです、ハニガンさん」で作り笑顔を崩さないジュライ(河﨑千尋)。ダフィ(山本樹里)は、孤児院のつらさを歌う「It's The Hard-Knock Life」の「サンタって誰さ?」の歌詞部分や、グレースがアニーを選んだときに見せる笑顔がとても印象的だ。

個性豊かな孤児たちは、ときに喧嘩しつつも、ともに歌い、ともにハニガンに立ち向かう。そんな強さを、客席から応援してしまう。

孤児たち

孤児たち

「It's The Hard-Knock Life」は、アニーを演じる宮城を筆頭に、皆、野太い声で怒りをこめて歌う。早朝から掃除をさせられて、うんざりしているのだ。しかしそこでシーツを持ってぴょんぴょん飛び跳ねるケイト、「It's The Hard-Knock Life (Reprise) 」の「本当に」という歌詞部分で、いちいちポーズを変えるモリー(一番のちびっこモリーは、この後バケツにはまってしまう!)など、ダンサブルな中に遊びの要素がある。

日本テレビで毎年放送される『アニー』メイキング(関東では4月に放送/その他地域は別欄参照)にて、振付・ステージングの広崎うらんは、子どもたちに「大人の目を盗んで遊ぶ」という課題を出していた。そう、「演じる」とは「Play(遊ぶ)」なのだ! アニーも孤児たちも、大人に助けてなんかもらえない。だから楽しさも自分で見つけ出す。ハニガンに悪さしても「ごめーん!」で済ませる、ちゃっかりさ。彼らは決して優等生ではない。そこが魅力なのだ。

■第一幕、最大の魅せ場!「N.Y.C.」

「N.Y.C.」

「N.Y.C.」

『アニー』第一幕のビッグ・ナンバーといえば、「N.Y.C.」だ。アニー、ウォーバックス、秘書グレースは、タイムズスクエア近くのロキシー・シアターまで映画を観に行く。

ウォーバックスによって歌われる「N.Y.C.」に、登場してくるのは未来のスター(坂口杏奈)。坂口は子役時代、『アニー』オーディションに落ちているそうだ。大人になって、その『アニー』に「未来のスター」として登場する。アニーになりたい歴31年の筆者も、いつかアニーになれるのではないか?と希望がわいてくる。

未来のスターとともにきらびやかに変身するのは、ダンスキッズ(東 未結、高橋奈々、髙橋有生、田中愛純、廣瀬奏空、宮原咲心)。その衣裳は、マリリン・モンローのような白いドレス、『CHICAGO』や『コーラスライン』の映画のようなドレスだ。「未来のスターの将来が、こうであったらいいな」と観客も夢見ることのできる華やかさ。そして、その華やかな夢を見られる街こそ、『アニー』の舞台ニューヨーク、そう「N.Y.C.」なのである。

さて、アニー、ウォーバックス、グレース。彼らはいずれも血のつながりはない。しかし、『アニー』を観ていると感じないだろうか?「血のつながった親子だけがファミリーか?」「誰といることがハッピーか?」ということを。

巨万の富をを手にしている、大富豪ウォーバックス。自分のモノは何も持っていない、孤児の少女アニー。この2人が、この先どうなるのか?……それは劇場でお確かめいただきたい。


ゲネプロ終了後、大富豪ウォーバックス役の藤本隆宏、ハニガン役の辺見えみり、アニー役の新井夢乃 (あらいゆめの/チーム・バケツ)・宮城弥榮(みやぎやえ/チーム・モップ)による会見が劇場ロビーで行われた。今回の2人のアニーは劇中と同じく11歳である。

(左から)辺見えみり、新井夢乃、宮城弥榮、藤本隆宏

(左から)辺見えみり、新井夢乃、宮城弥榮、藤本隆宏

藤本は「新しいキャストでパワーアップした。特にアニーの2人が元気よく、演るたびにどんどん成長している。稽古で間違えてもケロッとしていて、アニーと同じく前向きな2人。これからが楽しみ」。親子2代でハニガンを演じた辺見は、「衣裳や演出こそ違うが、母が演じた時に観たものを今、自分が演じているんだなと考えると、ウルッとくる」と、夢が叶った嬉しさを語った。

辺見について、宮城は「『おはよ~』と言ってくれたりする、楽しい人」。新井は「お芝居のときは怖いけど、普段は声をかけてくれて、面白くてイイなって思ってます」。藤本も「辺見さんのハニガンはハーモニーが素晴らしい。素敵です。プライベートはすごく優しくて、子どもたちは皆、ハニガンに集まります」と絶賛。辺見は照れ笑いをしながら「それを言うのは営業妨害」と返す。

アニー2人の初日は2018年4月21日(土)。たった今、ゲネプロで主演を終えたばかりの宮城は「今日、うまくいったので、それを最後の公演日まで出していきたい」。新井は「明日の初日に向けて緊張しているけれど、稽古は楽しかった。皆で力を合わせてやってきたので、お客さんに伝わるよう頑張りたい」と抱負を語った。

丸美屋食品ミュージカル『アニー』は2018年4月21日(土)~5月7日(月)、新国立劇場 中劇場で上演。8月より福岡・大阪・新潟・名古屋にて公演予定(日程は下記「公演情報」参照)。

取材・文=ヨコウチ会長  写真撮影=安藤光夫

劇場ロビー

劇場ロビー

★ときに『アニー』を観劇しながら、「ウォーバックスの電話の相手、バーナード・バルークって誰?」「アニーはウォーバックスに、どこでクリームソーダを食べたらいいよ、って言われているの?」「執事ドレークは第一幕の最後、何て叫んでいるの?」など、色々な疑問が湧いてくる人もいるだろう。そんな時には、当連載の「アニー用語辞典 <前編>&<後編> 」をご覧いただければ幸いである。さらに、ミュージカル『アニー』に関して、もっと深く知りたい方は、下記連載記事をご参照ください↓

<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー
[第24回]2年目の山田演出は、「より分かり易く」「より面白く」!ミュージカル『アニー』ゲネプロレポート

次回に続く

細かいところが面白い! 2018年版の『アニー』<前編>~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第25回】

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【THE MUSICAL LOVERS】
Season 2 ミュージカル『アニー』【第25回】
細かいところが面白い!2018年『アニー』<前編>

前回はこちら

丸美屋食品ミュージカル『アニー』。山田和也の「新演出」は2年目となった。いよいよ8月4日(土)からは、福岡・大阪・新潟・名古屋をまわる、夏のツアーが始まる。『アニー』第二シーズンの到来である。

2018年の『アニー』(チーム・バケツ/チーム・モップ)を観てみると、細かい部分がよりいっそう面白い! この<前編>では、東京公演のゲネプロレポート では書ききれなかった細かい部分の面白さも含め、第一幕を追ってみた。

■ちゃっかりしていてイタズラ者の孤児たち!

孤児たちはちゃっかりしていてイタズラ者ぞろい。そんな中、イタズラっ子ランキングでいくと、誰が1位か? それはやっぱり、ちびっ子・モリー(尾上 凜/島田沙季)だろう。

第1場・孤児院の共同寝室。孤児院の院長ハニガン(辺見えみり)は、孤児にはつらくあたり、酒ばかりあおっているアル中だ。モリーはハニガンの後ろから、その威張った歩き方を真似て観客を笑わせる。酒をあおるハニガンを、後ろからジロジロ見るモリー。ハニガンが「お薬だよ」と言えば、モリーは「すっっっごく病気なんだね」なんて生意気を言う。ハニガンから「地獄へ落ちろ!」と怒られても動じない。モリーは、この後の曲「It's The Hard-Knock Life」でも、が掃除する中、ひとりハニガンのセリフを真似て、孤児たちに掃除の指示をする。のみならず、「ピー!ピー!ピー!(笛の音)」「ぐびぐびぐびぐび(酒を呑む音)」など、ハニガンのクセも擬音でなぞってご満悦だ。洗濯物のシーツの山に入り込み、ハニガンに叱られても平然とするモリー。アニー(新井夢乃/宮城弥榮)が孤児院を脱走した後、バケツにハマっちゃうところなど、最高にキュートだ。

モリーがバケツに!

モリーがバケツに!

しかし、このモリーのキャラクターはオリジナルのもの。新演出においてイタズラ好きが際立つのは、ケイト(歌田雛芽/込山翔愛)ではないだろうか。ケイトといえば、第4場・孤児院(ハニガンのオフィス)で、ハニガンにネズミの死骸を見せるシーンでおなじみだが、第1場からさりげなくイタズラっ子ぶりを発揮している。ペパー(田中樹音/武藤光璃)とジュライ(山下琴菜/河﨑千尋)とのケンカに、「もうやだ」と頭を抱えるテシー(音地美思/林 歩美)。かなりうるさいのに、ベッドから片足を出して、マイペースに寝ているケイト。テシーは毛布にくるまってケンカに怯えるが、その後起き出してきたケイトが、テシーの毛布をぺろっとはがして、中を覗いて笑っている。ケイトはイタズラもマイペースだ。

最年長のダフィ(藤田ひとみ/山本樹里)も負けてはいない。ケイトにネズミの死骸を見せられたハニガンに追い打ちをかけるのがダフィは、「ハニガンさんハニガンさん、ハニガンさ~ん!」と、あたかも楽しい報告があるかのように、弾んだ口調で語りかける。「ハニガンがコニー・アイランドで買ったお気に入りのサテンのクッション、あるじゃないですかぁ」。クッションをほっぺたに当て、頬ずりするハニガン。「それにモリーがゲロ吐いた!」イヤァ~~とクッションを放り投げるハニガンの姿を指さして、けたたましく笑うダフィ。アニーになりたい歴31年の筆者だが、もはやハニガンの辛さの方がわかる。っていうか辺見えみり(41歳)、筆者(43歳)より年下だった……。

こんな孤児院出てゆきたい! ハニガンが歌う「Little Girls」には、彼女の幻覚のように孤児たちの姿がチラつく。ケイトは、ちょっとヒッピーっぽい帽子がお気に入りで、その帽子を触ってご満悦。「もうやだ、もうやだ」が口癖のテシーは、頭を抱えている。ペパーは、手で顔面を覆っているが、これは孤児院を抜け出そうとするアニーに皮肉を言った際、懐中電灯を当てられたときの動作だ。これまで出てきた、孤児の「クセ」や特徴が、振付に現れている!(振付・ステージング:広崎うらん)

「Little Girls」ハニガンと孤児たち

「Little Girls」ハニガンと孤児たち

■かわいそうなハニガン

孤児たちのイタズラ連発から気を取り直したハニガンが、大好きなヘレン・トレントのラジオドラマ(【第21回】 参照。声は鹿志村篤臣!)を聴いている。すると物語のイイところで邪魔が入る。孤児院を脱走していたアニーが、17管区ウォード警部補(矢部貴将)に連れ戻されたのだ。孤児院に珍しくやって来た若い男性に良いところを見せたいハニガンは、孤児たちに優しく語りかける。「お遊戯室に、ホットココアとジンジャークッキーをご用意してあげたワ」。

孤児院にお遊戯室などない。ましてや、おやつなんて……。これに対し「どこ?」と訝しむペパー。ハニガンが無の声色で「あっち行け」と追い払う。ウォードだけがハニガンを「こんな良い人」と言うが、アニーが「この人は全然」……その口を後ろから押さえつけるハニガン、モゴモゴするアニーが可笑しい!

■野生味ある孤児・アニー

さて、旧演出、とくにジョエル・ビショッフ時代(2001年~2016年)のアニー像は、「天真爛漫、明るく素直」というイメージで創られていたように思う。いまでも東京以外の『アニー』のキャッチコピーが「きれいな心あげる!」だったりする。

だが山田和也演出のアニーは違う。孤児院からの脱走を企てるアニーは、得意げな表情で洗濯袋に入る。ハニガンの目が届かなくなると、洗濯袋から顔を出し、「フフン」とばかりに悠然とした余裕を見せる。「アニーは、素直で明るくて優しい子」ではあるが、山田演出は「頭が良くてちゃっかりした子」の印象も植えつけるのだ。

大富豪ウォーバックスの秘書グレース(白羽ゆり)が、クリスマス休暇を一緒に過ごす孤児を探しに来た際の演出も違う。グレースの求める「賢い子」には「Mississippi」の綴りを答える等、オーダーどおりにふるまうアニー。さらにアニーは、グレースに自分の赤毛をアピールし、年齢もジェスチャーで上げさせ、「11歳、赤毛」の女の子を所望していると言わせる。ここまでも旧演出にスピード感が加わっているが、ここからが山田演出。アニーの行動を面白がって応えてくれたグレースに対し、「ぐっ」とアニーがサムアップ。しかしハニガンは、「ほかの子なら誰を連れて行ってもいいけど、アニーはダメ」と、孤児たちを呼んで並ばせる。孤児たちは「何してるんだろう?」「アニーどうしたの?」と、ひそひそ。アニーは、グレースの「アニーおいで」の呼びかけに応え、行く手を阻むハニガンの足をバシッと踏みつける! アニーの行動に、孤児院で培った知恵と、サバイバルな孤児院社会を生きる粗野さが加わった!

Mississippi!賢さをアピールするアニー

Mississippi!賢さをアピールするアニー

■サンディの名前の由来は……?

アニーの知恵といえば、孤児院を脱走していた際に、野良犬サンディと出会った時にも発揮された。

第2場・セントマークスプレイスの街角にて、野犬狩りが行われている。野犬捕獲人助手(大竹 尚)が野良犬をケージに入れる。野犬捕獲人(谷本充弘)が、「これで50セントだ」。野犬を捕獲すればお金がもらえるようだ。彼らに捕まらなかった犬こそが、後のサンディだ。アニーが、ごみ箱の中をガサゴソと漁り、食べ物のカスが入った袋を探し出す。寄って来るサンディ。とはいえこの時は、名前はまだない。アニーが「この犬は野良犬ではない、自分の犬だ」と証明するために、その砂っぽい薄茶(sandy)な毛色から、とっさに「サンディ」と名づけるのだ。2018年からサンディは犬種が変わり、レトリバーの血を引くミックス犬となった。薄茶の混じる新しいサンディは、文字通り「sandy」だ。

サンディを演じる「バブ」は、『アニー』公演中の5月6日、テレビ朝日系列『復讐捜査』にて名演技を披露。『アニー』ファンのみならずお茶の間の話題となった。

サンディ

サンディ

なお、旧演出では「Sandy Beach(砂浜)」のポスターが貼られており、それを見たアニーが名前を思いつく設定だった。

■ローズベルトの対抗馬

続く第3場にて、アニーはサンディとともにフーバービル(貧民街)にゆく。フーバービルで暮らす失業者達は失政が原因のひどい暮らしに文句を言う。それに対し、アニーがうまいことを言うと「まるで小さな政治家だ」とチヤホヤ。そんなアニーの機転に、リンゴ売りが言う。「ローズベルトの対抗馬になれるぞ」。あれ……あなたは、第二幕で登場するローズベルト大統領(伊藤俊彦)ではないか!これは2018年からローズベルト大統領になった伊藤への、山田演出の遊び心だろう。

ところで、山田演出になってから、ここでソフィ(岩﨑ルリ子)が皆に配る「謎の煮込み」が美味しくなっているようだ。旧演出ではアニーが「おえっ」という表情をし、サンディも食べない、文字どおり「犬も食わない」ものだった。しかし山田演出は、本当の魅力が詰まっているブロードウェイ版に立ち返る基本姿勢を表明していた。ミュージカル『アニー』の脚本を手掛けたトーマス・ミーハンの設定では、アニーが一番つらいことは、孤児院の「どろどろスープ(mush:乾燥トウモロコシを溶いたもの)」を食べさせられること。しかも、いつもぬるいか冷めている。寒い中、優しく接してくれる人たちから熱々の煮込みをもらえたら、孤児院の「どろどろスープ」よりもよっぽど美味しいはずだ。

■とにかく可愛い鹿志村ドレーク

さて、ここで、筆者の推し・鹿志村篤臣の話をしたいと思う。さきほどのフーバービルにも鹿志村はいたが、何といってもウォーバックス邸での鹿志村に注目だ。

アニーがグレースに連れられ、駅舎のように豪華なウォーバックス邸にやって来た。執事のドレーク(鹿志村篤臣)に「コートをお預かりします」と言われ、とっさに「返してくれる?」と、ファイティングポーズで応戦するアニー。

ファイティングポーズのアニー

ファイティングポーズのアニー

ドレークと女中頭のグリア(川井美奈子)が指揮をとり、ウォーバックスの帰宅に必要なものはスタッフたちが全てそろえている。その忙しいさなかでも、おもてなしのプロとしてアニーを迎えるスタッフたち。アニーへの夢のような待遇が歌われる「I Think I'm Gonna Like It Here」(谷本充弘の回転ジャンプの跳躍力がスゴイ!)に、アニーは「誰かつねって」。するとドレークが真に受けて、真顔で横からつねる。知らんぷりを決め込むドレークを、つねり返すアニー。それでもしれっと真顔を崩さないドレーク、しばらくするとアニーに触られて乱れた衣服を、サッサッサッと直す。いや、直すフリをして、アニーがつけたシラミを払っているのか!?その、真面目なロボットのような動作が、筆者の大のお気に入りだ。それにしても1933年の世界大恐慌の余波が色濃いご時世の孤児、しかもアニーは孤児院を脱走していたのだから、風呂に入ったのはいつだったのか……。

■グレースの投げキッスの数、増大!

ウォーバックス(藤本隆宏)が6週間ぶりに出張から帰って来た。秘書グレース「アニーは、このお屋敷に来て初めての夜なんです」。そこで「何か特別なこと」を提案するウォーバックス。グレースが必死のジェスチャー、しかしウォーバックスには一向に伝わらない。しびれを切らしたアニーが「映画!」と当て、グレースに「そう!」と褒められると、得意げにサムアップするアニー。

thumb up!

thumb up!

さて、グレースの一連のジェスチャーの中に、ウォーバックスへの投げキッスがあったのをお気づきだろうか?! しかも4月のゲネプロでは1回の投げキッスで「キャッ」とはにかんでいたグレースが、5月に観た際には5~6回投げキッスを飛ばした上、「I love you!!」とウォーバックスに向かって口が動いているではないか!! 料理人ピュー(坂口杏奈)がグレースに「ウォーバックスさんが戻って嬉しいですわね」と含み笑いで言っていたように、グレースはウォーバックスに恋しているのだ。その想いをジェスチャーの中に混ぜてしまうグレースが、とっても愛らしい。

グレースのジェスチャーが功を奏し、アニーは映画に連れて行ってもらえることに。が、ウォーバックスは仕事で行かれないと言う。「いいの、大丈夫!」と返すものの、あからさまにシューンとしょぼくれるアニー。ウォーバックスが言い訳をすると、「大丈夫!」と、またシューン。バーナード・バルークからの電話を地団駄でジャマするアニーに、ウォーバックスがついに折れる。バルークに「これから10歳のレディと約束がある」と言うウォーバックスに、アニーはすかさず「11歳だよ」と、ませたポーズと大人びた声色。アニーに「し、失礼!」と、紳士的に詫びるウォーバックスには、グレースじゃなくても「キュン」とくるのではないだろうか。ウォーバックスは、子どもの前だから、と汚い言葉はやめようとするのも良い。ウォーバックスに怒られそうになれば、ファイティングポーズで応戦するアニー。そんな生意気さがすっかり気に入るウォーバックス。そして、アニーの癖はサムアップとファイティングポーズなのだな、と、躍動感ある演出が印象づける。

■アンサンブルに注目の「N.Y.C.」

第6場・ニューヨークの街。ウォーバックス、アニー、グレースはロキシー・シアターに向かっている。ウォーバックスがリード・ボーカルをとるビッグ・ナンバー「N.Y.C.」には、ニューヨークの特徴として、こんな歌詞が出てくる。「口汚く罵る、タクシードライバー」「胸やけを起こさせるホットドッグ」。その歌詞に連動して登場するタクシードライバー(矢部貴将)と、ホットドッグ売り(谷本充弘)。

アニーに「サン・モリッツ・ホテルのカフェ(ニューヨーク5番街に位置するラグジュアリーホテル。カフェのアイスが名物。【第21回】参照)で、アイスクリームソーダを頼むといい」と言っていたウォーバックスだが、ロキシー・シアターに向かう道中、アイスクリーム屋台にアニーが食いつき、ウォーバックスも相伴する(旧演出では、アイスクリームソーダを飲むカットが挟まれていた)。確かに、孤児院を出ていきなりサン・モリッツは敷居が高すぎる。映画館では、アニーにポップコーンをすすめるウォーバックス。ウォーバックス自身、久しく食べていないと言う。そういえば道中、少女がポップコーンを持って走っていたっけ。ウォーバックスはアニーを迎え、ニューヨークの街角での買い食いを一緒に楽しんでいる。ウォーバックス一行は、ティファニーのバッグを持った人ともすれ違っている。ウォーバックスはここで、後の買い物のインスピレーションを得たのだろうか。

さて、このナンバーを彩るダンスキッズ(大川惺椰、大谷紗蘭、大星優輝、齊藤芯希、平井蒼大、山中莉緒奈/東 未結、高橋奈々、髙橋有生、田中愛純、廣瀬奏空、宮原咲心)も、未来のスター(坂口杏奈)の着替えとともに、華やかな衣裳にチェンジ! このナンバーの余韻をふんわり残すかのように、ダンスキッズだけが残るシーンも美しい。オールド『アニー』ファンは、2010年にタップキッズとしてこの曲に参加していた神谷玲花が、カップルや案内嬢としてこのナンバーに登場するのも注目だろう。パンフレットには振付助手補佐として、2015年のタップキッズだった出口稚子の名もあった。『ビリー・エリオット』のシャロン・パーシー役(大人バレエガールズ)としても輝いていた彼女が、こうした形で後進の指導に当たっているのも、オールド『アニー』ファンにはグッときてしまうのではないだろうか。「N.Y.C.」の華やかさが終わるとともに、サンディが登場し、「アニー、どこ~?」とばかりに舞台を横切ってゆくのも、毎年のことながら可愛い。

「アニー どこかな~」と、てくてく横切るサンディ

「アニー どこかな~」と、てくてく横切るサンディ

ところで山田演出の「N.Y.C.」には、ルースターが登場しない。旧演出(ジョエル・ビショッフ時代)は、刑務所から出所したてのルースターが登場し、靴磨きをしてもらっている間にコインを消す芸当を披露、靴磨き屋が驚いている一瞬に代金を払わずトンズラしていた。後にルースターの恋人リリーが「ルースターは邪魔なものは、何でも消せるのよ」と語るシーンにつながる演出だった。ちなみにルースターはその際、姉・ハニガンあての大きなプレゼントを抱えていた。中身は姉の好物である酒。刑務所にいて禁酒法(【第13回】参照)が解かれたのを知らなかったのか、ずいぶん大げさに(別のものに見えるように)ラッピングしていた。

■シラミだらけのみなしご

第7場・孤児院(裁縫室)。ハニガンが黙々と、モリーのシラミを取っている。「あ、やっぱり孤児たちはシラミだらけなんだな」と思わせる。するとこの後、ハニガンの弟・ルースター(青柳塁斗)が歌うではないか。「シラミだらけのみなしご」……実際の英語の歌詞に「シラミ」のフレーズはない。「我々がわずかなお金を得る間に、あの小さなガキはウォーバックスを得た。フェアじゃない。頭がおかしくなりそう」という内容を、韻を踏みながら歌っている。ただしこの訳詞は山田演出よりも前から使われているものだ。山田演出の「分かり易さ」から、ハニガンにシラミを取らせているのだろう。

モリーのシラミを取るハニガン

モリーのシラミを取るハニガン

■「このロケットを取らないで!」初めてアニーが涙を見せる

第8場・ウォーバックス邸(オフィス)。アニーを養子にしたいと思うウォーバックスは、ティファニーでロケット(ペンダント)を注文した。それが届いたと知り、緊張するウォーバックス。「アニーを世界一幸せな子にするんでしょう?」と、ほほ笑むグレース。白羽グレースは、セリフの後の余韻の残し方がとても素敵だ!

アニーを呼び出したはいいが、すぐには養子の話ができないウォーバックス。自分のことをわかってもらおう、と、自身の生い立ちを話し出す。両親を早くに亡くし、23歳で100万ドル、10年で1億ドル稼いだのだ、と。1億ドルに対し、「当時としてはすごいお金だよ」と語るウォーバックスに、「今でもすごいお金ですが……」と毎年思ってしまう筆者だ。その告白を、ふむふむ……と聴くアニー。アニーはウォーバックスが「モナ・リザ」の絵を飾らせている間も、何の絵と知る由もなく、ふむふむと見ていた。ウォーバックスから「ベーブ・ルースに会いたいか?」と聞かれれば、「わぁ~、すっごく会いたい!(誰だろ?)」と、その場では合わせていた。案の定、ウォーバックスの身の上話が難しく、わかっていないのに合わせていただけのアニーであった。

難しい身の上話は切り上げ、アニーにロケットをプレゼントすることで喜んでもらおうとするウォーバックス。アニーがいつもしているロケットは、古くて壊れかけているから……と外そうとする。だけどアニーは「やめて!」とその手から逃げた。これは両親が孤児院に置き去りにしたときに自分にかけてくれた、両親の子だという証明だ。ウォーバックスさんとクリスマス休暇を過ごせたのはラッキーだったけど、本当の望みは、普通の子と同じように、本当の両親と暮らすことなんだ。アニーは泣きながらグレースにすがりつく。ショックで「この子(アニー)にブランデーを……」とよろめくウォーバックス。ウォーバックスはそのまま、自らブランデーを持ってきて気付とし、その勢いでFBIのフーバー長官に電話、アニーの両親の捜索に乗り出す。<※1933年はFBI(Federal Bureau of Investigation=連邦捜査局)の呼称ではなく、BoI(Bureau of Investigation=捜査局)であるが……。>アニーは今まで肌身離さず身につけていた2つのもの-ロケットと、孤児院に置き去りにした両親が書いた手紙-の両方を、手がかりとして託す。

手紙

手紙

グレースはアニーに優しく微笑みかけ、ウォーバックス邸のスタッフは、「You Won't Be An Orphan For Long」の曲で、「きっと両親が見つかる」と、勇ましくアニーを元気づける。皆が円をなして盛り上がる中、ウォーバックスは輪に入れない。

ドレークが皆を下がらせ、ドレークも様子をみてひっそり去る。孤児院の友だちに、「すぐに両親が見つかるそうです」と、晴れやかな表情で手紙を書くアニー。アニーを見つめる、寂しそうなウォーバックス。ウォーバックスを黙って切なく見つめるグレース。誰の視線も合わないまま、幕が下りる。

お気づきだろうか。アニーは後にも先にも泣くことはない。第二幕でショックなことがわかっても、嬉しいことがあっても泣かない。ミュージカル『アニー』の脚本家・トーマス・ミーハンが書いたノベライズ本『アニー』によれば、この場面、アニーは必死に泣くまいとしている。だけど「物心がついて初めて、アニーは泣いていた」とあるのだ。アニーにとってロケットを外す、ということは、ロケットのように古くて壊れかけた両親との絆を奪われる思いだったのだろう。だけどウォーバックスの優しさや、自分が恵まれていることもわかっている。その状況で、本当の望みをどう言葉にすればよいのかわからず、涙がこぼれ落ちてしまうアニーなのだった。

<後編>(第二幕)に続く


★『アニー』のわからない語句・疑問については、当連載の「アニー用語辞典 <前編(第一幕)><後編(第二幕)>」をご覧ください。さらに、ミュージカル『アニー』に関して、もっと深く知りたい方は、下記連載記事をどうぞ!↓

<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー
[第24回]2年目の山田演出は、「より分かり易く」「より面白く」!ミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第25回]細かいところが面白い!2018年『アニー』<前編>

※参考文献:
・ミュージカル『アニー』パンフレット(2018年版掲載 香盤表、日本公演)
・トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)
・Thomas Meehan『Annie -A novel based on the beloved musical!-』(2013年、Puffin Books)

文・イラスト=ヨコウチ会長

細かいところが面白い! 2018年版の『アニー』

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【THE MUSICAL LOVERS】
Season 2 ミュージカル『アニー』【第26回】
細かいところが面白い!2018年『アニー』<後編>

前回はこちら

 


丸美屋食品ミュージカル『アニー』。山田和也の「新演出」は2年目となった。いよいよ8月4日(土)からは、福岡・大阪・新潟・名古屋をまわる、夏のツアーが始まる。『アニー』第二シーズンの到来である。

2018年の『アニー』東京公演(チーム・バケツ/チーム・モップ)を観てみると、細かい部分がよりいっそう面白くなっていた! ──ということで、この<後編>では、今年のゲネプロレポート および<前編>では書けなかった、第二幕の面白さを追っていきたい。

■終始無言の、ミスター・アプローズ

第一幕の後の休憩明けとなる、第0場・前説。2017年に引き続き、効果音係を演じるのは谷本充弘だ。劇場の観客をラジオ番組の見学客に見立て、「APPLAUSE」というボードを掲げたら、観客は拍手をする。開演5分前からこのパフォーマンスが始まるのだが、その間、谷本はサーカスのピエロのように終始無言である。

谷本はまず、舞台下手(向かって左側)に出てきて、観客に手を振る。その時点で思わず拍手が! すると、裏面になった白いボードを指さし、「まだ!」と合図。満を持して「APPLAUSE」面を掲げ、拍手をもらうと、「Good!」というポーズ。たまにオーケストラピットからふざけて拍手が来ると、目で「めっ」と合図。二階にも視線を向け、上からも拍手をもらってご満悦。「は~、ひと仕事した」とばかりに汗をふきながら退場。思わず拍手する観客に、白いボードを指さし、やめさせる……かと思えば、去り際にまた「APPLAUSE」! 2017年よりも確実にシャープになっている!!

■「しゃべっていない人が面白い」がギッシリのラジオ局!!

効果音係による無言の前説(?)が終わり、アントラクト(第二幕前のオーケストラ演奏)からの第1場。アニー(新井夢乃/宮城弥榮)の「Maybe(Reprise II)」が歌われる。ここはNBCラジオ番組「スマイル・アワー」のスタジオだ。効果音係の「APPLAUSE」ボードが揚がれば、慣れた観客(我々)は拍手。司会のバート・ヒーリー(矢部貴将)がアニーに話しかける。何か発表があるときには、プロデューサー(鹿志村篤臣)の指示で、オーケストラの大げさなドラムが入る。が、このドラムの音が大きすぎて、アニーがお立ち台から転がり落ちてしまう。

さて、このラジオは見学客のいる公開録音という設定だ。【第10回】でも述べたのだが、「バートがおくる奇跡のタップ」が、効果音係の手操作で鳴らすタップ……。逆に「ラジオだからほとんどのお客さんに見えない」という前提なのに、人形術師フレッド・マクラケン(伊藤広祥)は人形ワッキーと腹話術をする。しかもお揃いの服で!バート・ヒーリーのズボンも、片方だけチェックという凝ったデザインだ。そして「ラジオ界唯一の覆面アナウンサー、ジミー・ジョンソン!」……ラジオで覆面にする必要性って!?

ジミー・ジョンソン(森 雄基)は、頭にすっぽりと紙袋をかぶっている。いちおう目と口は開いているのだが、ボイラン・シスターズ(岩﨑ルリ子、神谷玲花、坂口杏奈)が歌い出す際に、後ろの椅子へヨロヨロと手探りでハケる。座ったとたんに、(客に見えているのに)紙袋をはずしてくつろぐ。覆面の概念とは……? 外していいなら、紙袋のままヨロヨロと席に戻るところもおかしいし、そもそも紙袋の穴が、目の位置と合っていないのでは?

ジミー・ジョンソン

ジミー・ジョンソン

そんなジミー・ジョンソンとフレッド・マクラケンは、ボイラン・シスターズの曲の前奏で、小さくさりげなくステップを踏んでいる。紙袋をかぶった男と、お揃いの服の腹話術人形を持った男が無言で踊っている図を想像してほしい。

ボイラン・シスターズが歌い始めると、ジミー・ジョンソンとフレッド・マクラケンに、あれこれをジェスチャーを交えて話すプロデューサー。プロデューサーが席を立つと、その空いた席に、腹話術人形のワッキーを座らせるフレッド・マクラケン。椅子にワッキー人形が、ちょこんと乗っている図が気になって、見なくていいのに毎度注目してしまう……。プロデューサーは、今度はバート・ヒーリーに話しかける。話し込みすぎて、歌うきっかけを忘れるバート・ヒーリーが、効果音係に無言ではたかれる。そんなバート・ヒーリーのキャッチコピーは「涙もろくておなじみ」……それってラジオでわかるもの?? そしてボイラン・シスターズの曲の最中、効果音係が彼女たちの前をウロウロしながらラジオの台本(読み終わるたびに床に落とされる)を拾っている。ボイラン・シスターズのパフォーマンスが観たい見学客に邪魔がられていないのか? そしてボイラン・シスターズは、ウォーバックス(藤本隆宏)が出てくる際、身だしなみをささっと整え、手を振ってアピールしている。ウォーバックスから、アニーの両親への懸賞金5万ドルが発表されれば、こそこそと騒ぎ出す。この、カオスと遊び心いっぱいのラジオの現場、筆者は大好きだ!!

■ペパーって真面目なんだ!

第2場・孤児院(裁縫室)。孤児たちはアニーが出ているラジオを聴いて大盛り上がり。しかし、ペパー(田中樹音/武藤光璃)だけは黙々とミシンを踏んでいる。そういえば第一幕でハニガンが孤児たちに「ドレスの注文が入っている。何が何でも今日中に終わらせるんだ」と命令していたっけ。孤児たちは学校へも行かせてもらえず、労働しているのだ。

黙々と作業するペパー

黙々と作業するペパー

バート・ヒーリーやボイラン・シスターズの真似をして「Fully Dressed」を歌い出す、ペパー以外の孤児たち。口火を切るのはダフィ(藤田ひとみ/山本樹里)。澄んだ声でソロを取るジュライ(山下琴菜/河﨑千尋)。それにしても、ボイラン・シスターズの振付は、ラジオだけなのに、なぜわかるのだろう? ま、それよりも、興味がないフリをしていたペパーも加わったり、ケイト(歌田雛芽/込山翔愛)がさりげなくバク転していたり、元気いっぱいに歌い踊る孤児たちを楽しもう。ペパー、ジュライ、ダフィのお姉さん組に持ち上げられる、モリー(尾上 凜/島田沙季)、ケイト、テシー(音地美思/林 歩美)のちびっこ組に頬が緩む。孤児院の院長ハニガン(辺見えみり)の目を盗んで、ドレス作り用のモール等で着飾る孤児たち。「おめかし」という歌詞でお化粧のパフをはたくポーズ、43歳の筆者もマネしたい。

■ハロルド・イッキーズの、アンジョルラス的ハンカチ芸!

第3場・ホワイトハウス閣議室。ローズベルト大統領(伊藤俊彦)の「FBIはアル・カポネに手を焼いている」については、【第11回】  でも述べたとおり、1933年12月時点において
★FBI(Federal Bureau of Investigation=連邦捜査局)の呼称は1935年以降。この当時はBoI(Bureau of Investigation=捜査局)
★1931年3月に、アル・カポネは、FBIではなく、エリオット・ネスの率いる財務省・酒類取締局に、すでに逮捕されている、
──のだが、それはさておき……。

アニーとウォーバックスも、ホワイトハウスの閣僚会議に参加することになった。まず口火を切ったウォーバックスが、「クーリッジ大統領の言葉を借りれば『アメリカ人の本業はビジネスにあり』」と言って、閣僚たちをウンザリさせる。とりわけ谷本充弘の仏頂面。彼こそが、のちの「ハル・ノート」(【第5回】参照)を生み出す、コーデル・ハル国務長官である。

ウォーバックスの隣には、「ハル・ノート」の叩き台になった私案を考案したヘンリー・モーゲンソウ財務長官(矢部貴将)。ローズベルト大統領の車椅子を押しているのは、大統領側近で特別経済顧問のルイス・ハウ(森 雄基)。唯一の女性は、アメリカ合衆国初の女性閣僚フランシス・パーキンス(川井美奈子)。ウォーバックスの発言に対してブツブツ言い出す閣僚に、アニーが「朝がくれば トゥモロー、いいことがある トゥモロー」とつぶやく。真面目な会議の席での、能天気なアニーの発言に怒るハロルド・イッキーズ内務長官(伊藤広祥)。だがローズベルトは、「ここ(アメリカ合衆国)はまだ、自由の国だよ」とアニーに続けさせる。するとアニーは「Tomorrow」を口ずさむ。興に乗ったアニーは椅子の上で歌い、しまいには机の上で晴れやかに歌う。これを見て、今後の政権の方針がひらめきそうになるローズベルト。

前年のイッキーズ(白石拓也)が確立したノリノリ芸。今年の伊藤広祥はそこに“革命”要素を加えた。

ローズベルトはイッキーズに、アニーが歌った曲を「歌え」と命じる。あたふたと拒否するイッキーズ。しかし大統領は再び「歌え!アニーのように」と命じる。恥ずかしそうに、少し震え声ながらも一所懸命に声を張って、音痴な歌を披露するイッキーズ。しかし歌っていて気持ちよくなってきたのか、アニーのように机の上に乗ってしまう。その後ろには星条旗が! 星条旗の代わりにハンカチを振り回すイッキーズ。最後にはハンカチを空に投げ、両手を広げて清々しい表情。歌い終わった皆に「お疲れ!」とばかりに、笑顔で肩をたたくイッキーズ。まるで革命の旗を振り回す、『レ・ミゼラブル』の学生軍リーダー・アンジョルラスのようではないか! イッキーズが意気揚々と発言する。「大統領、100と言わず、1000の公共事業を!」続いてパーキンスが「ダム」、イッキーズが「建設」、パーキングが「雇用」と、次々にキーワードが飛び出す。これから「ニュー・ディール政策」という改革が始まる予感!! 「大統領の、ソロだ!」とローズベルトがソロをとり、歌詞を間違えてアニーに訂正され、正しく歌えるとアニーに「ぐっ」とサムアップされるシーンもGOOD。

ただしハルは国務長官らしく、ドイツと戦争をすることに対する国力について発言していた。モーゲンソウは、ウォーバックスと話をしている。ウォーバックスのモデルは、『アニー』本編に何度も名前が出るバーナード・バルークではないかと筆者は推測しているのだが、そのバルークが1941年、モーゲンソウにABCD包囲網の一環として在米日本資産凍結を進言したことは、【第12回】 で述べたとおりだ。この第3場では、この先の「暗黒のTomorrow」(【第5回】  参照)を暗示していることにも注目したい。

『Franklin D. Roosevelt and the New Deal: 1932-1940』書影

『Franklin D. Roosevelt and the New Deal: 1932-1940』書影

■とにかく可愛い執事・鹿志村ドレーク パート2!

第4場 第5場a・ウォーバックス邸(ギャラリー)。<前編 >でも、ベテラン執事・ドレーク(鹿志村篤臣)の可愛さについて語ったが、第二幕でも可愛さはますます健在だ。

「アニーの親だ」と自称する617人の女性と519人の男性を面接した、ウォーバックスの秘書グレース(白羽ゆり)。合計人数に詰まるグレースに、執事ドレーク(鹿志村篤臣)が「1236人」と、ぼそっと答える。「マンハッタンに、こんなに嘘つきがいるなんて!」と憤るグレースに、ドレーク「ブロンクスからもいらっしゃってました」と静かにつぶやきながら去ってゆく。

ドレークはいつだって、旦那様=ウォーバックスに呼ばれる前に、先回りして到着している優秀執事だ。人気ラジオ番組「スマイル・アワー」を通した公開捜査でも、アニーの両親が見つからなかったことで、アニーはウォーバックスの養子になることにOKしてくれた。この流れで、もちろん呼ばれる数秒前には、スッ……と現れているドレーク。「養子縁組の手続きをする。ブランダイス判事に電話してくれ」と命じるウォーバックスに、ずずずいっ……とゆっくり無言で迫り来るドレーク。(怒っているのか?!)と両手を挙げてたじろぐウォーバックス。ドレークは、ぬっ、とウォーバックスに顔を近づけ「……かしこまりました」。そして去り際に「ヤッホ~~~~!」とジャンプ!! 筆者は2018年版を4回観たが、この「ヤッホー」、毎回、観客が一番笑いそうな温度でやっていた。日によっては小さく「ヤッホ」くらいのときがあり、その匙加減が毎度完璧!『アニー』出演18年目のなせる技である。一方ドジっ子グレースは、ウォーバックスに花やシャンペン等の準備を頼まれ、テンパってしまい調理棚に激突。「ガラガラガッシャ―ン!」「スコーン!」と幕内から音だけが響き、グレースが声だけで「だいじょぶですぅ~~」という場面は場内爆笑だ。

グレース大爆発

グレース大爆発

■アニーの「おめかし」=おなじみの、あの髪型!

第5場b 第6場・ウォーバックス邸(イーストボールルーム)。アニーを養子に迎えるにあたり、イーストボールルームでパーティーを開くことになった。ウォーバックスは、邸宅のスタッフも招待するので「バッチリ、キメてくるように」と指示。指示の先を読むドレークは、1秒でバッチリ、キメてくる。そしてグレースも純白のドレスに着替えるのだが、それを見たウォーバックスは「綺麗だ」。憧れのウォーバックスに褒められ、ふらぁ~っと倒れるグレースを、いつだって一歩先回りのドレークが受け止める!

ドレークの「♪おめかし しましょう」のソロが印象的な曲「Annie」。そこで盛大に迎えられるブランダイス判事(矢部貴将)。しかしブランダイス判事、なぜあんなにヒゲもじゃなのだろうか? 実際の顔に、ヒゲはなかったと思うのだが……。

おめかし

おめかし

「おめかし」をして、パーマをあてたアニーも音楽に合わせて堂々と登場(『アニー』といったらおなじみの、あのショートっぽいくるくるヘアーは、第二幕のこんな後半まで出てこないのだ!)。ブランダイス判事により、いよいよ養子縁組の手続きをしよう、という瞬間、アニーの両親だと名乗る男女(マッジ夫妻)がやって来た。ウォーバックス邸のスタッフが「きっとまたニセモノだ」「このタイミングで」とばかりに、ヒソヒソと煙たがる。しかし彼らは、アニーの両親と言える証拠を全て揃えていた。その様子にブランダイス判事の「あれ~?」という表情。アニーの両親だと名乗る男女は、5万ドルの懸賞金でニュージャージーの養豚場を買い、そこでアニーを育てたいと言う。アニーに両親が見つかったことを喜ぼうとするウォーバックスとスタッフたち。しかしアニーは「養豚場なんて……すごい……」と浮かない顔。皆、アニーの両親が見つかった乾杯をしてくれるが、アニーはパーティーの場から去ってしまった。そこへタイミング悪く入って来るローズベルト大統領。「ホウホウホウ、メリー・クリスマス!」と陽気な挨拶!沈み込んで迎えるスタッフに、「私はそんなに人気がないのか……?」と側近ルイス・ハウにしょんぼり言うローズベルト、「いえ、そんなことは」とでも言っていそうなハウの表情が、面白哀しい。

さて、せっかく来たブランダイス判事とローズベルト大統領は、どう退場するのか。ブランダイス判事が大統領に事情を説明するジェスチャーで、一緒にはけてゆく。【第12回】でも述べたとおり、ブランダイス判事はローズベルトの私的アドバイザーも務めていたのだ。『アニー』では描かれないが、この先、ニュー・ディールの主な立法を合憲と認め、法律家の立場から大統領の政策を支えてゆくこととなる。

皆が去り、ドレークと料理人ピュー(坂口杏奈)だけが残る。ドレークが黙ってクリスマスツリーのライトを消す。ピューはさめざめと泣いてしまう。真っ暗な中、窓の外の雪が「Maybe」のストリングスに合わせて降りしきる。この後、アニーが「Maybe (Reprise III) 」を歌うが、【第7回】  【第8回】でも述べたとおり、『アニー』製作にあたって出資者を募ったバッカーズ・オーディション(1972年)の段階では、ここは「I've Never Been So Happy」という浮かれた曲だった。作詞、そしてブロードウェイ初演の演出を手掛けたマーティン・チャーニンによれば、「アニーはニュージャージーの養豚場での生活を覚悟しなくてはならないのだ。NG!パーティーじゃないんだぞ」。アニーは夢にまで見た両親が見つかった。けれどもそれは田舎の養豚場で、厳しい生活が待っていることは明らかだ。アニーだって、せっかく心を通わせた富豪のウォーバックスさんたちと離れたくない、と葛藤しているわけだ。浮かれた曲は没になり、「Maybe (Reprise III) 」が歌われるようになった次第だ。

だが、見つかったと思ったアニーの両親(マッジ夫妻)はニセモノだった。ウォーバックスに助けを求められたローズベルト大統領が、本当の両親(ベネット夫妻)は亡くなったのだとアニーに話してくれた。「本当は、なんとなくわかってた」「私のこと愛してたのに、迎えに来なかった、ってことは……」黙ってしまうアニーの心が落ち着くのをじっと待ち、「愛してるよ、アニー・ベネット」と、アニーの本当の名前で呼びかけるウォーバックス!

では、あの「アニーの両親」だと名乗ったマッジ夫妻は何者なのか?! アニーのロケット(ペンダント)の秘密を知っていたのは……ハニガンさんだ!ハニガンさん、それが鍵だ!!

さあ、ここからゲームが始まる。ドレークが嬉しそうに「ハニガンさんがお見えになりました!」ハニガンは、悪だくみがバレているとも知らずに、ゴージャスなドレスだ。

連れられた孤児たちは、ウォーバックス邸のゴージャスさに、口をぽかんと呆然顔。そんな孤児たちに用意されたプレゼントに、テシーが歓喜の声をあげる。「も~、やったぁ~~!」テシーの口癖「もうやだ(Oh my goodness)」が、「も~、やったぁ~~!(Oh my goodness!)」に!!ぬいぐるみやドールハウス、ボクシングのグローブなど、それぞれに合うプレゼントが用意されている中、モリーは我先に箱を開けている。そこが通り道になるので、いちいちモリーをまたぐドレーク。見かねてモリーをひょいっと持ち上げ、どかすウォーバックス。この無言のやり取り、最高に好き!

アニーは、自分の両親だと名乗ったマッジ夫妻の正体をこっそり知らされる。そこで叫ぶ言葉は「ビックリ仰天!」

ここは、オリジナルの英語台本では「Leapin' Lizards!」となっている箇所だ。【第15回】 でも述べたとおり、コミック・ストリップ『小さな孤児アニー』時代から、アニーの口癖である。原作コミックに慣れ親しんだアメリカ人にとって、アニーといえば「Leapin' Lizards!」というくらいおなじみの語句で、直訳すると「跳んでるトカゲ!」、実際には「おったまげー!」「ウソみたい!」という意味で使用される慣用句だ。「アニー好き」で「アニーになりたかった」と公言する平野ノラも、よく「おったまげー!」と叫んでいるが、このギャグの大元は『アニー』だったりして……!?

さて、正体がバレているとも知らずにマッジ夫妻がやって来た。アニーがわざと明るく「ハーイ、ママ! ハーイ、パパ!」と手を振る。しかしマッジ夫妻が手にした支払い保証付き小切手には、「ゲーム・オーバー」と書かれていた。ローズベルト大統領の「バーイ、ママ!バーイ、パパ!」、取り繕うハニガンが孤児たちに「ひいらぎかざろう」を歌わせるが、ウォーバックスが「私の、ソロだ!」と割り込む。「こいつも共犯 ラララ ラララ ラララ♪」ホワイトハウスでのローズベルト大統領の「大統領の、ソロだ!」のパロディ!

マッジ夫妻とともに逮捕されそうになったハニガンは、アニーに救いを求める。しかしアニーは「言えないよ」「だってハニガンさん、いつも言ってたじゃない。ウソをついては、いけないって……」モリーも「地獄へ落ちろ!」と、以前ハニガンに言われたことを、そっくりそのまま返す。そんな生意気な孤児たちに、ハニガンは「あんたたちのことなんて、誰も好きじゃなかった!!!」と最後っ屁。それも空しく、じたばたとドレークに連れ去られるマッジ夫妻=ルースター(青柳塁斗)と恋人リリー(山本紗也加)。

この後、アニーによってグレース、パパ(ウォーバックス)、ローズベルト大統領が孤児たちに紹介される。それぞれに「こんにちはぁ~」と返す孤児たちだが、ここはチームによって演出が違う。チーム・バケツのアニー(新井夢乃)は、「この人、アメリカ大統領!」と、大統領の車椅子のわきで「ふふん」と得意げ。チーム・バケツの孤児は、このとき「こんにちは」と言わずに無言。対してチーム・モップの孤児たちは、ローズベルト大統領へ「こんにちはぁ……」と、消え入りそうな声での挨拶。そういえばハニガンも、ローズベルト大統領を紹介されたとき、驚きのあまり固まってしまっていたっけ。

ローズベルト大統領から孤児たちに、もうハニガンは永久に戻ってこないことが告げられる。その代わり学校で勉強できるよ、と言われ、孤児たちは「げー」とガックリ。しかし、もう「どろどろスープ」とはおさらばだと聞かされた孤児たちは、歓喜のあまり「ノーモアどろどろ!」の行進。なんたって孤児たちにとっては、孤児院をおさらばできることよりも、「どろどろスープ」とお別れできることが、「いちばんすばらしいニュース」なのだから(【第13回】参照)。

そんな孤児たちに目を細め、ウォーバックスに「私たちにとっても、素晴らしいクリスマスになりそうだ」と手を取られたグレースが、黙ってしまうのがとても可愛らしい。好きな人に手を握られ、求愛されているとわかったら、驚くより前に黙っちゃうよね……わかります!幸せをつかんだ皆を、そっと見守るダンスキッズ。犬のサンディもアニーの元へ帰ってきて、めでたしめでたし。

カーテンコールはダンスキッズそれぞれの得意分野の見せ場があり、孤児たち1人1人の個性あるおじぎも楽しめる。が、孤児たちへの拍手のタイミングが毎度わからない。1人1人に目いっぱい、拍手したいのに~~!

さて、ミュージカル『アニー』東京公演には、観客にもれなくグッズがもらえる「わくわくDAY」がある。2018年はその日の最後、指揮の福田光太郎とオーケストラの何人かが「わくわくDAY」でもらえるキャップをかぶっていた。「『アニー』クリスマスコンサート2017」でも、指揮の福田はじめオーケストラメンバーが、サンタ帽を被っているという、お茶目なサプライズがあったっけ(【第20回】参照)。とにかく可愛さあふれる、2018年の『アニー』だった!

アニー2018グッズ。CDのボーナストラック、「Maybe(クリスマスコンサート Ver.)」は必聴!

アニー2018グッズ。CDのボーナストラック、「Maybe(クリスマスコンサート Ver.)」は必聴!

ところで、2018年『アニー』CDのボーナストラックには、「Maybe(クリスマスコンサート Ver.)」  が入っているではないか! 歌うは2016年のアニー役:池田 葵、2017年のアニー役:野村里桜・会 百花、モリー役:小金花奈・今村貴空、ケイト役:林 咲樂・年友紗良、テシー役:井上 碧・久慈あい、ペパー役:小池佑奈・吉田天音、ジュライ役:笠井日向・相澤絵里菜、ダフィ役:宍野凜々子・野村愛梨だ。最高。っていうかクリスマスコンサートの音源、毎年フルで欲しい! 日テレさん、よろしくお願いいたします!!

★『アニー』のわからない語句・疑問については、当連載の「アニー用語辞典 <前編(第一幕)><後編(第二幕) >」をご覧ください。さらに、ミュージカル『アニー』に関して、もっと深く知りたい方は、下記連載記事をどうぞ!

<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
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[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
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※参考文献:
・ミュージカル『アニー』パンフレット(2018年版掲載 香盤表、日本公演)
・トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)
・Thomas Meehan『Annie -A novel based on the beloved musical!-』(2013年、Puffin Books)
・CD『アニー オリジナル・ブロードウェイ・キャスト』ブックレット内 歌詞およびライナーノーツ(2004年、ソニーミュージック)

文・イラスト=ヨコウチ会長

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